それは愛すべきカップル・第1話クリスマス冬風 狐作
「奇をてらった、意表を突いたプレゼント、ねぇ?」
「そんなもの中々ないですよ、皆簡単に言うけどさ」
「全くだ、まぁでも流石に何時も通りに食事に連れて行ってじゃ、流石に飽きられてるしなぁ。何たって正月も近いし、しょヴかつ休みで行くところの先食いみたいなところだもんな」
 クリスマス、そして正月。年の瀬と言われる時期に今の暦となってから連続するふたつのイベントは、多くの人々に共通して楽しまれ、そして一方では頭を時には抱えさせてくれる、そうしたものだろう。
 だからこそ毎年変わった趣向を加えたイベントや商品が展開されたり、またそれを利用して様々な人間模様が繰り広げられる。それは当然表向きの事からそうと示せない事まだまた様々、だからこそ面白く、と彼もまた思っている。そしてクリマスマイブで賑わう百貨店の地下街を見て歩いた足は、おつとめ品となったケーキを手にして家路へと向かうのだった。

「ただいまー」
 昼に吹いていた風も止んだ夜道、着込んでいるのもあってか暖かさすら感じながら通り抜けた住宅街の一角に彼の姿は消えていく。
「おかえりなさい、思ったより早くてよかった」
 返ってたのは弾んだ声、今時のチャットアプリよろしく何か記号を付けるなら音符と感嘆符が一緒についていそうな響きが返ってくる。しかし姿は見えない、何より家の中は玄関にこそ明かりは灯っていたがその先は真っ暗。靴を脱いでスリッパに履き替える位は特にどうと言う事もなかったが、その先に待ち受ける廊下を行くなら、勝手知ったる我が家とは言え明かりがあるのに越した事はないだろう。
「あーもうまた真っ暗で、今日はどこにいるのかなぁ…先に着替えに行ってるからね」
「うん、待ってるね」
 その足は玄関脇の扉の中に向かっていく、そして暗闇の先にやや大きい声で呼びかけては返事を受けつつ、その中へと姿を消す。そこは彼の自室、フローリングの上に薄いカーペットを敷いたやや広めの空間は、玄関からの近さを考慮するなら書斎とも言えるべき位置だろうか。
 最も実のところは書斎との雰囲気はわずかに置かれた本棚程度にしかなく、簡易な机とベッド、そして衣類などを架けるスペースからなる一室でしかない。そこで一通りの身支度を解いた彼は大きく体を伸ばして、未開封のままに置かれていたペットボトルの水を一気に飲み干したら、すっかり身軽な格好でまた部屋から出て行く。すると改めて開いた扉の先の廊下、そちらには先ほどまでは灯っていなかった明かりが満ちていて様子がまるで違っている。
 そして面白いのはその明かりがまるでこちらに来いと言わんばかりに、ある一方の方向にのみ続いている事だろう。具体的に書くならそれは2階へ向けて灯っていた。階下、つまり廊下をそのまま行くのではなく階段の上に向かって歩きやすい様に誘導するかの様になっているのをしばらく観察した後、彼が選んだのは暗い方向へ向けてスリッパの音を響かせる。
 その口元にはふっとした微笑みが伴われていた。段々と濃くなる暗さ、明かりの灯っていない廊下を進んだ彼はある部屋の前に来ると一層、その勢いを増させて満面の笑みとしながら軽くノックをその扉にする。それはもう楽しそうに、そして何かを口走ろうとした瞬間にその扉は内側より開かれた。
「ああ、もう。折角2階に行く様にしたのに」
 扉の内側からの暖気と共に響いてきた声は先ほど彼を迎え入れた声であった、元気な弾んだ声はそのまま明るい室内へと彼を引きずり込む。見たところ華奢に見える腕は実に力強く、思わず彼がおっとと口走ってしまうほど。
 最もそれは好意の表れ、と言えるだろう。即ち、彼を待ち構えていた、望んでいた気持ちが素直に力に変換されただけなのである。すっかり廊下と対照的な明るさに満ちた室内、先ほどの彼の部屋と大差ない広さをした空間には矢張りベッドが置かれていて、そこに半ば放られる様に彼が身を置けばすぐに立ったまま部屋の主、彼女は言葉にしなくともその気配の全てから好意そのものをばら撒く形で彼の前を塞いだのだからとても分かりやすいものだった。
   「全く、毎年こうしてくるからもう見え見えなんだってば…」
 その姿を見ながら彼はまた軽く笑いながら、しかし彼女をじっと見つめた。そこには敵意は当然ない、むしろ安心感と言えるだろうか、気持ちがすっかり解けたと言える雰囲気がとても纏われていた。
「やっぱり?でも他に何か浮かばないからねぇ…だってそれだけ私はあなたが好きなんだもの、分かるでしょ?」
「愛は変わらないって、言いたいんだろう?」
「そうそう、だから…今夜も受け取ってくれるかしら、私のサンタさん?」
「そりゃもう…ね?」
 会話が幾らか繰り返される、それはもう確かめ合いと言えるべき内容。言ってしまえば臭い、とも言えるだろうか、陳腐さもあって、しかしだからこそふたりの言葉遣いが段々と解れていき、終いには言葉をなくしたうなずきと指し示し、それ等だけへと変わって行く。
 正にそれは信頼感、愛情の発露でしかない。その中で彼の目線は彼女の全身を追う、細い胴体、しかし腰回りから太腿はとても太く、脂肪ではなしに筋肉質で均整のとれた体であるのを改めて認識していく。そして乳房、それは正に女性の証だろう、どういうサイズであれ、乳房があると言うのは女性しか得られない特権、やや下向きに乳首を向けた膨らみに思わず彼は唾を呑んだのが喉仏の動きから分かる。

 しかしどういう訳だろう、その胴体も腰も乳房も何やら色を纏っている。それは単なる皮膚の色ではなく、厚みと斑を有した体より生じている天性のもの、即ち無数の毛であって特に脇腹から下半身にかけて斜めの方向に広がって行く明るい茶色の部位には白い斑点が幾つも伴われている。
 それを先人達から伝わる言葉で示すなら「鹿の子斑」であろう。そう、鹿の毛並みに浮かぶ白い斑点の事を言い表す通りの毛並み、それは彼女がヒトではないのを示していた。
 だから乳房も淡い白い毛並みに覆われているし、腹部も逆三角形的にそうである。そしてそれは首元を経て下顎の付近まで続いていて。きれいな別れ目をもって上顎から先は背中側を伝ってきた明るい茶色の毛並みによって覆われている、鼻も黒く突き出ていては所々に人の要素を抱きつつも大体は鹿の顔である、そう獣たるシカの顔と毛並みを有する体の彼女を彼は愛しく、とてももうたまらないと言う蕩けた視線にて見つめていたのだ。
「もうそんなに舐め回す様に見つめちゃって…今更見慣れた体でしょうに」
 流石にそこまで見つめられると彼女の声も少しばかり小さくなる。それは不満と言うよりも気恥ずかしさだろうか、いや嬉しさも含まれているのかもしれない。何せ彼女からしても彼は思いを寄せるに足る存在、言ってしまえばみられる事は嬉しいのである。余りにも単純であると思われるかもしれない、しかし恋は盲目との言葉の通りであるのが何よりも大事なのであって、その互いの姿を見合う事など愛情表現の最も明確な現れでしかないのだ。
 だから彼女は次のステップを求める、それは彼からの接触だった。それも積極的に促さんと言わんばかりに彼女は腰を振っては彼の注目をそちらへと向けさせる、そこは性器のある場所、あるのはいわゆる勝負下着だろうか?否、あったのはリボンだった、そうリボンが巻かれた肉竿がそこにはそびえていた。
 肉竿、それはクリトリスだろうか?否、それも当然異なる、勝負下着と同様に違っていて、そもそもそうした体の彼女なのだ、ヒトと鹿の合わさったいわゆる獣人の彼女にそうした典型的なモノを求める事自体が間違ってたのかもしれない。
「…はい、クリスマスプレゼントだよ?受け取りなさい、解いてよね?」
 彼の注目がようやく自らの肉竿に注がれた時、彼女の声はやや調子を変えていた。そうそれまでがある意味「媚びる」と言う隠し味を持っていたとするなら、新たなるそれは「命令調」であった。少しばかりさばさばした感すらある言葉遣いになって、一気に腰と共に肉竿を彼の眼前、特にリボンの端を口元に持って行く。途端に彼の鼻腔には濃厚な香りが伝わってくる、既にわずかに感じていた発情の証、いわゆる先走りの、それが時間が経って発する臭いが暖かい空気と共に呼吸する度に吸い込まれては、その脳みその認識をかき乱してくれるのだ。
「さあ?」
「…はい」
 少ない言葉の交換がそのカップルの関係を物語ってくる、そう彼は彼女に逆らえないのだ。逆らえないどころか、その関係性を彼は極めて求めては肉竿を生やした彼女に命じられて行動する事を受け入れて、選択しては強くその臭気を嗅いだかと思えばリボンの端を咥えて、わずかな力で肉竿に幾重にも巻かれたリボンを解いて、その顔に生じたばかりの先走りを受けてしまうほどだった。
「ん…っ」
 性器に巻かれていたリボン、それがその粘膜を含めた表面を自らが巻いたとは言え、解かれたが為に感じる感覚に彼女は思わず体を震わせては声を漏らす。その頭にある角、そして桃色の髪の毛が大きく揺れるからそれなりのものだろう。
 それに対して彼が何か言う事は無い、ただ無言、その内心は躍らせながら甘い香りと味のするリボンにしばらく舌を走らせた後、今度は肉竿を丹念に舐め始める。ねっとり、しかし静かに。幾度も根元から先端に向けて太さと長さを適度に有する獣の肉竿をに走らせた後、舌を引込めたら次は先端から咥え込むのみだった。
「ああ、良いよぉ…っ!」
 彼女は震えながら腕を動かす、片腕は彼を逃さんと言わんばかりに頭を抑え込んで、もう片腕は桃色の髪の毛と角の間にある帽子、赤いサンタ帽を落ちないように押さえながら、わずかに自ら腰も振っては快感をより求め、そして吐息を甘く濃くしていく。先ほどまで垂れていた大きなラッパにも近い三角耳は、今や上向きに反っていて細く開かれた瞳と共にその肉体と脳味噌が淫事に悶えているのは明らかだった。
「ああ、はあ…もっとぉ…っ!」
 一心になされる彼の口腔と舌からの刺激は彼女―鹿娘の快感をますます加速させていく。その全てが彼女の内にはとても収まってはいられない、あふれた分はとても多くていよいよ、堪えきれずに外れた腕の間からサンタ帽が落ちてしまうほどだった。余裕はもうなかった、例え落ちた先に彼の頭があっても構いはしなかった。
 もし構っていた、構う余裕があるとするなら彼の方だろう、その空いている腕は鹿娘の太腿から尻にかけての毛並みを盛んに撫でまわした後、その尻尾の全体を刺激していた。鹿の尻尾は本来的にそう大きくはない、だから尻尾から付け根からアナルの、下手したら襞まで、もう余さずに撫で回す事で彼は口からの刺激と合わせて休ませる瞬間を与えなかったのだった。

 だからその瞬間もある意味では予期出来たものだった、しかしそうであっても彼が逃れられる訳がない。もう幾度目だろうか、と言うぐらいに大きなのけぞりが彼にその瞬間の近さを感じさせる。その口の中で刺激を与え続ける肉竿、鹿娘のそれからもたらされる臭気と熱が増したと感じた次の瞬間、濃厚な生臭さと息苦しさに思わず、眉間に皺を彼は寄せてしまう。
「…っあ、はあ、今日も飲んで…っ、私の愛液…っ」
 どくっどくどくっ、とその動きに文字を与えるならそれが相応しいほどの勢いで鹿娘―彼女は自らの肉竿を経由して、その睾丸からの精子を正に種付けせん、との具合で注いでいく。
 彼もまたそれに応えんと言わんばかりに口に喉を動かす、それもカップルだからこそ抱ける不文律に沿って、もらさないとの決まり事を忠実に、愛が為に守る彼の姿に彼女はその黒い眼にて愛しさすら抱けなかった。故に少しばかり腰をくの字に曲げて、射精に相応しい本能的な格好を取る獣人として彼の口はもう雌穴でしかなかった。
 もうそれはたっぷりとした濃厚なものだった、少なくともヒトではありえない量を獣人だからこそ彼女は注げる。しかしそれほどの精液の出る体でありながら、その事を愛液と呼んでいるのもまた事実。そう彼女からしたらそれはあくまでも愛液、そう子種とは決して捉えていないのである。
 それは一面では正しいのかもしれない、何故ならその精子がこの情交により子種として機能する事は無いのだから。あくまでも快楽の発露の結果として消費されるのみ、そもそも乳房がある鹿娘の肉竿から出ているのだから正常な精液ではない、そうと考えたら正に愛液が相応しいのだろう。
「良く飲めました。さぁ…たっぷりきれいにしてよね?そしたら買ってきてくれたケーキを一緒に食べよう?」
 大体数分は注がれ続けた精液様の愛液、それが収まってから引き抜かれた肉竿。
 少しばかり垂れたモノを彼女は蹄混じりの指にて示したら、今度は四つん這いになった「ヒト」の彼がまた咥え込む。何時の間にかその体に纏う衣服は無くなっていた、代わりにその首には青い首輪が着けられて、そしてそう赤いリードを介して動きに示唆を与えたら、もう彼は意の通りに動く、それほどまでに彼女は獣人として「ヒト」を飼っていて久しい。
 これはそんなカップル、肉竿の生えた鹿娘、もといシーメールな鹿人と「ヒト」の交わる聖夜の一場面の切り抜きなのである。


 続
それは愛すべきカップル・第2話ペットの家
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