ある学校の文化祭の風景 ―前編 恐怖! トラブルメーカー― レッドへリング作
 季節は秋風の心地よい季節へと移り変わり、学生達にとっては文化祭や体育祭の行事の季節となる。絶対につけないと心に誓った日記にこれを書き込んだのはそれほど屈辱的であり…また、楽しかった文化祭の思い出を残したかったからだ。

 ある学校の文化祭の風景 ―前編 恐怖! トラブルメーカー―

キーンコーンカーンコーン
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く…これでやっと帰ってゲームができる。
「はいはい〜。皆ちょっと待ってね。」
 うわ、出たよ。仕切り屋兼トラブルメーカー学級委員 宮野…こいつが出てきた時はろくな事が無い。
「今日は、明後日の文化祭の話で先生から時間をもらってます。大事な話なのでとっとと帰れるように皆、協力してくれよ。」
 くっそぉ〜、とっとと帰りたかったのにちゃちゃが入るとは……。仕方が無い、とっとと意見出して早く終わらせねば。
「この前、自分が飼っているペットを持ってくると言ってくれた人は手を挙げて下さい。」
 自分を含め、クラスの半分くらいの人が手を挙げる。に…しても、何で今更そんな事を確認せねばならないのだろうか? 忘れるなと釘を刺すつもりだろうか…それとも、別の理由があるのだろうか。考えれば考えるほど分からない。
「ふっふぅ〜ん、実はペットショップのオーナーと交渉して宣伝する代わりに動物達を貸してもらえる事になりました。な・の・で、当日は連れて来なくても良くなったのよ。」
 その時、妙な寒気が俺の背中を走った。あの笑い、あの言い草…これは何かが絶対にあるに違いない。奴はそういう女だ。周りの皆もそれが分かっているのか、顔色が青くなったり、神に祈り始めた奴までいる。この状況はマズイ…非常にマズイ。
「それでも、万が一の事があります。明日、半分の人が用意で来る予定でしたが、ペット持ってくる予定だった人もとりあえず来ちゃってください。じゃ、何か質問は?」
 俺はしぶしぶ手を挙げる。
「はい、そこ。」
「明日はペットを連れて来た方がいいですか?」
「いい質問です。ペットを連れてくる必要はありません。他は?」
 誰も学級委員の迫力に押され手を挙げる人間はいない…もし、ここで反対して奴の餌食にでもなったら明日は無いからな。奴は気に食わない人間にあったら、否応無しで強制的に個別で呼び出して…実験とか称してむちゃくちゃな事をするらしいのだ。最近では、テレポーターなる物を発明…実験して、被害者は裸でグラウンドに立っていたとかいなかったとか……。とにかくだ! こいつにだけは誰も逆らえないのだ、俺だって殴られたくないし、何よりも命が惜しい。
「では、今日の所はおしまいだ。皆、気ぃつけて帰ろう。」
 そんなこんなで今日の授業は完全に終了した。が、納得できるわけでもなく課題をやっていても…ゲームをやっていても気持ちは完全に明日の奴の出方の事を考えていた。

 そんな日の夜、奴から電話がかかってきた。
「はぁい、良い夜すごしてる?」
「あぁ、あんたが電話してくるまではな。」
「…明日は泊りがけで準備する事になったから。手伝ってもらえないかしら。」
 彼女は巧みにいやみをスルーし、挙句に選択肢が無い疑問を飛ばす。
「嫌だって言ったら?」
「あぁ〜ら、そうねぇ。今度の実験に付き合ってくれるんだったら別にかまわないわよぉ。」
「それは何の実験だ?」
 付き合う気はさらさら無いが聞いてみる。
「悪魔合体の実験。人と悪魔を合体させたらどうなるかなぁ。…なんてね♪」
 ちょっと待て、何の世界だ? お前はヴィクトルの親戚かぁ? オイ。 …もしかして、業魔殿なるホテルや豪華客船が出てくるんじゃないのか? ひょっとしたら人形みたいなメイドさんや、フランス料理人の剣合体の人も出てくるんじゃないのか? いや、マジで。
「…い、いいだろう、明日は泊りがけで付き合ってやる。」
 正直、嫌だったが実験台にさせられるのも嫌なのでしぶしぶ了承したが…声と顔は非常に引きつっていた。その後、それを聞いていた母や姉は俺を茶化してきて、説得が大変だったのは言うまでも無い。
「はぁ、疲れた。実に疲れた。」
「わふ♪」
 疲れているのを察したのか俺の愛犬が足元に擦り寄ってきた。相変わらずお前だけだよ、俺の気持ちを理解してくれるのは……。
「ハチ…今日は久々に一緒に寝るか?」
「わん♪」
 その日はいい夢を見れたのは言うまでもない。

次の日――
 第2土曜日…うちは私立の学校なので第2と第4の土曜日が休みなのだが、明日が文化祭の為こうして休日でも出てきているわけだ。一応、学校は休みなので私服で行けると言うのはスバラシイ…実に素晴らしい。何故かって? だって1日の大半は窮屈な学ラン着なきゃいけないんだ。たまには男だっておしゃれくらいしたい。
「でぇ、今日はここをこうするので…大道具の人たちは杉本君の指揮下の下で全力で作業してもらって、動物を連れてきてもらう予定だった人は別の用事があるので私についてきて下さい。」
 クラスのトラブルメーカーは一瞬だけではあるが、凍りつくような笑いを浮かべた。それに気づいたのは俺だけらしく、皆はぞろぞろと彼女の後についていく。行くのが怖い…怖すぎる。
「お、お前ら…本当についていっていいのか? 後悔しないのか?」
「なぁに言ってんだよ、野々村。文化祭の準備しないとなぁ。」
「だ、だよなぁ。」
 皆、声と顔が引き攣っていた…無理も無い、まるで獲物を狙う蛇のごとき、その眼力と殺気で俺ですら声を出す事ができない。何なんだよ、この女……。
「野々村くぅ〜ん?」
「ちっ…分かったよ、行けばいいんだろが、行けば!!」

 言い方はちょっと強く言っているように聞こえているが、所々変に裏声になってしまっているので、知らないうちに自分でも動揺しているのだろう…恐るべし。
 彼女は俺達を生物室に連れて入ると、入ってきたドアの鍵を閉めた…俺にはその音がまるで、ギロチンのように人生の終わりを告げる音のように聞こえて仕方がなかった。


 続
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