ドラゴンの行先暁 紅龍作
 あれはいつごろだったのか。僕は拓馬と一緒にスーパーでお菓子を買っていたんだ。僕の母さんを連れて。
 そしたら、拓馬が悪ふざけをし始めて、陳列してある売り物をちょっとイタヅラしたり。母さんは注意したんだ。でもそれが原因で…。

 ―夏。もうそろそろジメジメとした梅雨に入る頃だ。僕達もせっせと雨具を用意していつもどおりの生活をしている。
 僕は龍哉。この世界に生まれ落ちて、まだまだ全然だけどその分、みんな僕を甘やかしてくれるから嬉しい。
「じゃぁ母さん、学校行ってくるね〜」
『はい、行ってらっしゃい。気を抜くんじゃないのよ?』
 いつもの風景。いつもの会話。そんな、くだらないけど、安心出来る毎日が始まった。

 今日も生憎の雨である。3日連続で、ここん所毎日降り続いている。そんなに雨はすきじゃない僕にとって、ちょっと難題だったりする。
 っと突然傘が風に煽られて飛んでいってしまった。ちょうど通りかかったところで、ある人物に拾われる。
「お、龍哉じゃんか!おっはよぅ!」
 この子は拓馬君。同じ学校に通ってるクラスメイト。
「おはよう、拓馬。いつも元気だなぁ〜。」
 僕はこのジメジメとした空気が嫌いなので少し気分が悪かったが、拓馬はいつもどおり元気である。全く、少しは僕のことも理解してほしい。
「おっと、今日は飼育当番なんだ〜、先に行くよ!」
 拓馬は僕の傘を渡すと元気よく走っていった。

「やーい!お前のカーチャン、ドーラゴン!」
 またこれである。困ってしまうなぁ。拓馬は何気なく言ってるんだろうけど、ホントは大変なことなんだけどね。 そして学校に着くと、いつものように算数や国語を先生から教えてもらう。
「なぁ、龍哉!」
 拓馬が昼休みに話しかけてくる。
「ん?どうしたの?拓馬。」
 僕は素っ気無く返したけど、本当はちょっとびっくりした。
「なぁ、おまえんちのかーちゃん、本当にドラゴンなのか?!」
 これには返す言葉がない。
「うーん、違うって何回も言ってるじゃん。」
 僕は少しむっとした顔をして拓馬に返す。
「それだったらよ!おまえのかーちゃんから生えてた長い尻尾はどうなんだよ〜!」
 拓馬は僕の頬を両手で掴んで塞いでた口を無理やり開けようとする。

 そう、話は最初に戻って、あの日の買い物の日だ。母さんは長いスカートを着てた。少しだけ気分が良かったときに着たいという服らしい。そんな時に拓馬が悪ふざけをするもんだから、怒っちゃって。そしたら頭から角とスカートから尻尾が出て来ちゃったの。これはまずいよね。
 それからという物、拓馬は僕の母さんのことをいつもドラゴン、ドラゴンと呼ぶのである。ちょっと嫌な感じだ。
「だからー!それだってお前がかってに言い出したことで〜!」
 その時である。
『…龍哉…いいからその子をおうちに呼びなさい。いいね?』
 …母さんの声である。そっか、これも全部聞こえていたのか。
「うん、だったらうちにおいでよ!」
 昼休みのチャイムが鳴り響くと、午後の授業が始まる。
 なんだか拓馬がそわそわしてる感じが僕に伝わってくる。それは無論、僕もである。母さんはどうするつもりなんだろう。

 そして午後。授業が終わると早速拓馬が僕の前に現れる。
「おまえんちで何が見れるのかな、僕わくわくしてるよ!」
 といいながら僕の周りを回っては僕のことも考えずにニヤけた顔をしてみてくる。あぁ、どうしたらいいんだろう。
 そして僕のおうちについた。
「じゃぁどうぞ…。」
 玄関のドアを開ける。外見は至って普通な一軒家である。
「おっじゃましっまーす!」
 拓馬は元気そうに入っていく。玄関から長い廊下を歩いて、リビングに続くであろうドアを開ける。あー、そこからが厄介だ。
「え?なにここ???どうなってんだ?!」
 そりゃ驚くだろう。何せ、玄関からのドアを開けると、そこにはリビングなんかじゃなくて、石でできた洞穴のような場所に通じちゃったんだから。しかもかなり広い。はしゃぐ拓馬の声が反響している。
「おまえんち、どうなってんだ?!」
 そうなるよねー…。と言った感じで僕が言うと。
『あら、いらっしゃい。拓馬君。』優しい声が響き渡る。
「龍哉の母ちゃんの声がするぞ?!でもどこにもいない!どこー?」
 拓馬は少し混乱してるようで、あたりを見回している。
『私は後ろにいますよ、拓馬君。』母さんはそっと近づく。それはいつも拓馬が見る母さんの姿。
『でもね、もう隠し事はヤメようって、ね。龍哉。』母さんはにカット笑う。
「え?母さん本気なの?そんなの見せたって拓馬にはわからないよ!」
 僕はちょっと真剣な顔で見つめると。
『大丈夫だからね。』僕の頭をなでると、そっと拓馬に近づく。
『私たちの家族は、人間同士の家族じゃないの。拓馬君。』そっと彼に触れる手が気持ち大きくなる。
「え?どういう事…?」
 拓馬は敏感に反応した。そりゃ、何たって握手してた指の数が2本減っちゃったから。
『あの時見た角とか、尻尾はね。私たち家族の証でもあるのよ。』そうするとちょっと怖い顔して体に力をいれる。そうすることで、体が数倍にも大きくなって…。

 頭からは角が生えて、胴が長くなると、着てた服とかはいつの間にかなくなってて、足も少し短くなるような感じで3本指の足になってた。その先にあるのは鋭い爪。
 着てた服がなくなったあとに、胴長になった体を覆うようにざらついた鱗みたいなのが青く光ってる。顔もなんだかトカゲみたいな感じになって。
 最終的に、母さんは本来の姿である「ドラゴン」の姿に戻った。
「なぁ、龍哉?!これまじかよ!すげー!」
 拓馬はすごくはしゃいでいる。まぁ、よくある変身ものの様な感じに捉えてるのかもしれない。 「あー、言うの忘れたんだけど。拓馬?」
 僕も隠してたことを言わなければならない。それは母と同じことである。
「実はー…。僕もなんだ。」
 ちょっと言いにくそうな顔をしながら、拓馬を取り囲むと、僕はぐっと体に力を入れる。そうすることで、母と同じ変化が起こる。角が生え、胴が長くなり、尻尾も生え、鱗が生える。ただ、鱗の色が赤色なのを除けば、母を小さくした「ドラゴン」の姿になった。
「え?おまえもかよ!すげーな!ぼく夢見てるみたいだ!」
 拓馬はそうして僕の本当の姿を見てもなんとも思わない。むしろこっちが拍子抜けである。あんだけ心配したのはなんだったのだろう。

「おまえんちって、すげぇな!なんでこんな特技隠してたんだ?!」
 拓馬はわくわくした表情でこっちを見つめている。
『そりゃ、誰にも言えないからだよ!』僕は少しため息を付いて、母を見つめる。
 そう、僕の家系は竜の姿を持つ家庭なのだ。無論、父は普通の人間なわけなんだけど。でも普通だったらこんな事ってありえないと思う。
 竜は大昔に滅んだ、って母さんから聞いた。でも、一部が残って人間と一緒に暮らしてるうちに人間と一緒の姿になれるようになった。それが、僕達の家系なんだって。
 そんなことを話してもきっと理解はしてもらえないんだろうけど、拓馬に喜んでもらって嬉しかった。
『拓馬君、これでいいかしら?』そして普通の、人間の姿にもどると、僕たちは約束を交わした。他人に言わないって約束をね。
 そうして、いつもどおりの僕達の暮らしが終を告げた。
 帰り際…。
「やーい、おまえんちのかーちゃん、ドーラゴン!」
 という声を聞いたら、多分僕達の事だ。


終わり。
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