紅蓮と共に暁 紅龍作
 その時から、俺の関係は彼女彼氏ではなく、マスターと召喚獣という深い絆で結ばれる事になった。
 この村に古くから伝わる召喚術。それはこの村を豊かにし、発展させてきた物だ。
 そして、今日。新しい召喚士が誕生するのである。

 彼女の名はルナ。この星を見守り続けている大きな星の名である。
 そして俺はグレン。この星の核を包み込む熱いマグマの名である。

「グレン。ちょっとお願いがあるんだけど…。」
 そうルナに呼ばれたのは召喚士として任命される3ヶ月前程であった。俺は…。こんな時に思い返すのは何だかおかしいかもしれないが、ルナの事が好きだ。あの笑顔、あの声。そして何も挫けずに浸すら勉学にはげみ続ける姿が好きだ。そんなルナに呼ばれたからには、何かあるのだろうかという事だ。
「なんだい、ルナ。」
 俺は彼女の側に寄り添い、月夜に照らされている大きな丸太に腰をかけた。
「グレンに…大切な事を伝えたいの…。」
 ルナはそう切り出してきた。
「グレン…、貴方の事が…大好きです。」
 恥じらいながらも彼女らしい率直な切り出し方だと思えた。
「あぁ…俺も伝えなければな…、大好きさ、ルナ。」
『有難う…。』
 二人でいい出す事まで一緒とは。
「貴方の事が大好きでたまらない…。…でも私は…。」
 突然、彼女は暗い顔に転じた。いつもの明るい顔ではなく、辛そうな顔立ちだ。
「どうしたんだ?言ってみろよ。」
「私は…召喚士として旅に出なければならないの…。 だから貴方とはもう少しで会えなくなってしまう の…。」
 そう、召喚士として一人前になる為には様々な地方に出向き、召喚士としての知識を更に伸ばさなければならない。
「大丈夫さ…。俺はお前の側にいつもいる事にしたのさ。」
「…でもそれでは貴方が貴方でいられないかもしれないのよ…?」
 俺がいい出した事に、彼女は動揺する。

 この村から出る為には、召喚士と召喚獣という一対のパーティで出なければならない。召喚獣とは、その召喚術をパートナーに施し、一定期間の間、召喚獣として現世する事なのだ。それには危険も伴う。人としての記憶を失う恐れもある。召喚術の危険性はそのパーティの信頼度で変わってくるのだ…。
「安心しろ…。どんな姿になったとしても、ルナ…お前を愛している。」
 そうしてギュッと彼女を抱きしめる。この愛が本当である証拠の様に彼女はそっと俺の唇に 自身の唇を合わせ、接吻をしあったのであった。
 それからの俺は、召喚獣としての振る舞い方などを村長から教わるなどをし、いよいよ出発の日を迎えた。
「召喚獣としての期限は最低でも1年はある。それでも本当に良いのか?」
 村長や上級召喚士にも言われたが、俺の考えは変わらない。根底にある物。それが揺るがない限り、俺は彼女…ルナを信じられる。
「はい、それは十分にわかっています。」
「宜しい、ならば施術を開始する 」
 俺の周りに紅く浮き上がりながら回り出す紋様。
「出でよっ!大空の大者!グリフィンっ!!!」
 どくん…どくん…。
 その宣言から徐々に身体へとエネルギーが伝わってくる…。
「うぉぉぉ!!」
 そして変化が始まる。まず紋様が身体に纏っていた衣類を燃やし、何も身につけていない状態になる。そして一糸纏わぬ姿になった所で、四つん這いになった四肢に変化が起こる。
 まず手であった部分が徐々に猛禽の足のごとく、鋭い爪と頑丈な鱗状の肌に変化する。それは丁度肘まで覆い、下半身に変化が起こる。それまで地についていた膝がグッと持ち上がり、足の長さが極端に短くなる。そうした後に下半身には筋肉が浮き上がる様に発達をし、それを黄金の毛が覆い隠して行く。
 足の先端は、獅子のごとく鋭い爪を隠し持ち、3本指に硬い肉球を持つ様になった。そして四肢の変化が終わった頃、遂に頭部に変化が起こる。紋様により、痛みは感じないがまるで粘土の如く形状が変化して行くのは異様ではあった。そうして変化した後の頭部は焦げ茶色の鳥毛に覆われ、アクセントに目の周りが純白の鳥毛になっている猛禽の頭であった。耳は細長く、長い鳥毛が先端についている。
 そして、全身に筋肉が発達をし2回り程大きくなった身体に頭部と同じ様な焦げ茶色の鳥毛が覆い隠して行く。最後にぐっと身体に力を入れると、肩胛骨辺りから勢い良く猛禽の巨大な翼が現れる。そう、そうして俺は生まれ変わったのだ。大空を支配する大者、グリフィンに。
「気分はどうだ…?」
『…はい、恐らく大丈夫です』
 今の俺の姿は完璧なまでに召喚獣の姿であろう。そうして俺はマスターに誓う。
『マスター・ルナ。汝を我のマスターと宣言する』
 そうして俺と彼女は硬い絆に結ばれたパートナー同士 になったのであった。


 完
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