一つは怒りのままに身体を動かす感情・・・・。
一つは愛情に飢え、ただひたすらそれを欲する感情・・・・。
一つはその全てを自らの手にするという欲望が渦巻く感情・・。
それは私の意識にも影響を及ぼし始め、その感情に併せて、肉体までもが大きく変化していく。
「グゥ・・・ッ!!」
そして私は身体の中から外へ向かい力を込めると、首の両脇に一つずつふくらみが起き、それは段々と伸びていく。先端がそれぞれ大きく変化して、それは頭の形状になっていく。両脇から、元々あった変化した私の顔と寸分変わらない頭が出来上がるが、それぞれが若干各部が違い、狼の様な三角形で有りながら垂れている耳や、片方は、鹿のような長細い耳を顔の両脇に持ち、首から頭までを虎のような黄色と黒の縞模様に、片方は茶色の鹿のような獣毛で覆われておりそれは口を微かに開けると、荒い息をし始める。口からはだらしがなく舌を出し、もう片方はうなり声を上げている。
『グゥ・・・あぁぁ・・・・、力がみなぎっていく・・・。』
ケモノたちのまとまった意識は恍惚とした声を上げ、私の肉体変化が終わった・・・。
『・・・・私は・・・・どうしてしまったのだ・・・・?!』
私はようやく理性を取り戻し、辺りを見回す。部屋の家具類は粉々になり、部屋の各部の壁や床には鋭く大きな獣の爪痕が残されている。
『よう・・・!!人間って生き物は「怒り」の生き物だったのか・・・?』
そうして私の脇から、ぬっと長い異形の生き物の顔が現れる。
『うわぁぁっ!!ば、化け物っ・・・・!!!!』
私は思わず声を荒げて驚き、そして床に尻餅をつく。しかし、何かがクッションとなり、直接床には触れなかったのだ。
『化け物は無いんじゃない〜?自分だって、同じ「化け物」なのにさぁ〜。』
そうして私の背後にまた新たな顔が現れる。頭達は同じ顔立ちをしていて、私をずっと見つめている。
「・・・・!!私はっ!!ど、どうなっているんだっ!!」
そして私は自らの身体が大きく変化していることにようやく気がつく。巨大化した躯・・・、灰色に染まった獣毛が覆い、背には巨大な翼、それぞれ違った獣毛をしている三本の尻尾・・・、手足には鋭利な黒い爪・・・、そして何より三頭の龍のようでありながらそれぞれ若干ことなる部位のある頭が有ることだ・・・。
『どうなっているって・・・、この躯は君だけの物じゃないんだ・・・!なぁ、みんな・・。』
そうして左右の頭達はそれぞれ話し始める。そして私の意識のある頭にも、徐々に眠れる意識が目覚め始めていた。
『うむ・・・、力がわき上がってくる・・。』
私ははっとした。なぜならば、私の意識とは別に勝手に話し始めたのだから・・。それぞれの頭には3つに分かれた感情を持つ獣の意識があり、当然のことながら私の頭の中にも別な意識がある・・・。
そして私自身もその感情の中に沸々と込み上げていく物を感じ始める。それは怒り・・・。愛すべき者を奪われた大きな怒りの感情がわき起こり始め、また同時に喜びの感情も芽生え始める。この力がみなぎる新たな躯で、彼女を取り戻せる。あの魔神を倒せるという感情と共に・・。
“この力さえ・・・あれば・・・”
『そうだ・・・・・、自らの本能に従え・・・。』
頭の中で、内なる私の怒りの感情が話しかける・・。
“しかし・・・それは・・・・・。”
『何を今更・・・。ここまで行ってしまったのだから・・・。後戻りなんてさせない・・・・!』
そうしてまるで洗脳されていくかのように話しかけられる意識に徐々に飲み込まれ、そして溶かされていく・・・・。まるで甘いシロップにどっぷりつかっていくような、甘味な感覚が全身に行き渡っていく・・・。
“もっと・・・・・、もっと・・・・力が・・・欲しい・・!”
『さぁ・・・自ら更に欲するのだ・・・。欲望のままに・・・。感情の赴くがままに・・・!!』
そうして、私の意識は完全に溶けて無くなった・・・。新たに芽生えたのは邪悪で、残忍な意識・・・。力を得るためには何事も厭わない・・・。それは解けていった私の意識が元になっているのは言うまでもない・・。
それに呼応したのか、それぞれ別な頭にあった意識は全て吸収されて一つになった。この身体は全て自らの意志で自由自在に動かせる・・・・。
『・・・ふ・・ふふ・・・・ふふふ・・・・ははは・・・・ははははっ!!!・・・・凄いぞ・・・この力は・・・っ!!私は・・・「悪魔」になったのだ・・・・っ!!』
そうして高らかに笑うと、それぞれの頭はそれを祝うかのように大きく咆吼する・・・。そうして私は完全に「人」からかけ離れた存在へとなった・・・。
『・・・力が・・・力が手にはいるのなら・・・、肉体など、いくらでもくれてやる・・・っ!!貴様らも・・・我が力の糧になるがよい・・・。』
そうして異形の躯へと変化してから幾ばくかの月日が経った。今日も私の前へ集まっていた新たな動物霊を際限なく躯へ取り込んでいく・・・・。もはや、愛すべき彼女のことなど忘れ、ただひたすらあの時の出来事の復讐をしようと、力をため込んでいた・・・・。力を得るためには殺戮も惜しみなく行い、そうして霊魂を取り込んでいく・・・。
『ふふふ・・・・・。時は・・・・満ちた・・っ!』
そうして私は両手を差し出すと、あの冥界への扉の魔方陣を瞬く間に表せ、そして開いた門へと向かっていった・・・。私はもう迷わない・・・。やつをどう料理するか・・・、それだけをただ考え、そして笑みを浮かべて冥界へと向かったのであった・・・。