・・・・・・・そして話は冒頭へと戻るのであった。……………
病院に着き直ぐさま緊急手術が行われることになった。病院の処置室の入り口まで晴樹はずっと亮太のそばで手を握りしめながら見守っていた。ドアが閉まり、あたりは静まりかえった。
「だ・・・、大丈夫・・・・だよな・・。亮太・・・。」
彼は祈るような気持ちで処置中を示している赤い表示灯を見つめていた。
「・・・・・。ここは・・・・・。」
亮太は夢を見ていた。何もない、ただ真っ白な方向感覚も狂ってしまいそうなほど真っ白な空間。そして自分は一糸まとわぬ姿で空間に漂っている。そこに最初はぼやけて何がなんだかわからない蒼い何かが近寄って来た。流線型の蒼い生き物。美しく蒼い眩しい光を放ちながらそれは一度咆吼し、自分を見据える。
そして自分はそれを受け入れるような体制になり、体に向かってきた生き物を全身に受け止める。しかしそれは自分の体の中に染み込んでいくかのように入り込んでいく。すると何もなかった空間が一瞬で蒼い空に変わった。都市部でみる薄く淀んだ青空ではなく、本当に真っ青な空に、雲が連なっていて、それは本当に美しかった。
「汝、思い出せ・・・。我を・・・。」
空を飛んでいると何処からともなく声が響き渡る。知らないはずの声に、何故か懐かしい響きが伝わり、彼の記憶の奥底に秘められていた記憶が呼び起こされる………。
「あぁ・・・。わかるよ・・・。僕は・・・・・君・・・。」
そうして新たに呼び起こされた記憶に、亮太の意識は徐々に同化していき、消えていった。そして意識の変化によって体にも変化が起き始める。突如として体が蒼く光り始めると人のシルエットであったのが段々と先程体で受け止め、入り込んだ流線型の生き物のように変化していく。
手足は短くなり、逆に胴体は伸び、足の付け根からは長い尻尾のような体の一部が突きだし、顔も長くなっていた。光が収まる頃には彼の体は既に以前の形からかけ離れていた。流線型の体には宝石の如く光り輝く蒼い鱗。首筋から腹部は真珠色とでも言えるだろうか、背中に負けない位にこちらも綺麗である。手足は短くなり、指の数も4本に変わり、長く鋭い爪が生えそろっている。
その途中、何時現れたのかはわからないが、左手には蒼く光り輝く宝玉が握られていた。足の付け根からは最初は太く、先端になるにつれて、細くなっている尻尾が空間に流れている風にしなやかに動いている。尻尾も蒼い鱗と、腹部から延長してきた真珠色の鱗が覆い、そして顔は爬虫類のような扁平している顔、それでいて鋭い目つきで端正な顔立ちである。両耳は長く伸び、頭からは体と同じく蒼い髪の毛、そして漆黒の一対の角が生えている。
そう、彼は空想上の生き物とされていた「青龍」へと姿を変えたのであった。
「・・・・思い出した・・・・。我は・・・・。」
そうして青龍は蒼い玉を中心にして抱きかかえるように体を丸くして、甦った喜びに涙しながら静かに瞳を閉じ、眠りについたのであった。
亮太は処置室での緊急手術で一命を取り留め今は安定しているが一向に目を覚まさずにいた。晴樹は毎日学校が終わるとその足で病院へ行く。そう、亮太の看病をするために。
「亮太・・・。今日な、学校で・・・」
いつもは笑いながら話している晴樹も徐々に言葉が詰まり次第に瞳には涙が溢れださんとばかりに湧き出てくる。
ぽたっ・・・。
亮太の頬に彼の涙が頬を伝って流れ落ちていく。
「うぅ・・・・・。」
そのときであった。亮太が徐々に意識を回復し始めたのだ。
「亮太!!おい!わかるか?!晴樹だぞ!!」
徐々に彼の瞳が開かれていく。
「ここは・・・・・・、何処だ・・・?」
亮太はゆっくりではあるが話しかけてきたのである。
「此処か?病院だぞ・・・!」
晴樹は彼の手を握りしめ、ナースコールを押した。