「今日は君達に正式な入隊試験を行ってもらう。これをパスすれば君達は晴れて翔龍の仲間入りだ。健闘を祈る。」
そして、最終試験日。試験官の言葉を聞き終わるといよいよ試験だ。番号順に個室に呼ばれ、各自試験官の質問に答えて行くという簡単な口述試験の様な物だと俺は思っていた。だが、個室からは何故か動物の様な嘶きや、激しい物音がしたりとどうやら勝手が違う様だ。ぐっと拳に力が入り、手汗が滲み始める。
「012番、入りなさい。」
俺の受験番号が呼ばれる。緊張感が全身に駆け巡り、体が思う様に動かない。
「失礼します。」
個室の中は床と壁は金属張りで殺風景な印象であり、高さ・広さとも十分すぎるぐらいの部屋であった。その部屋の中で長机とイスがあり、異様な雰囲気であったりもした。
「さて、これから君の試験を始めるのだがまずはこれを着てからこの薬を飲んでくれ。」
そう言われると、試験官の補佐官が俺に間違いなくサイズ違いだと思われる大きな服と鋼鉄製の胸当て、腕につけるこれまた鋼鉄製の防具と共にいつも飲んでいた錠剤とは色が赤く、少し大きなタイプの錠剤が手渡される。
「人前で脱ぐのは恥ずかしいかね?それでは…。」
試験官が指を鳴らすと俺の目の前に一瞬で白いプラスチック製のぼかし壁が現れた。どうやら最初からこの透明な壁で俺と試験官と仕切られていたようだ。
「これで良いだろう。着替えたら薬を飲んでくれ。」
試験で着替える事はあるのだろうかと言う疑問が生じたがそれは臨機応変に対応しないといけないからだと言う結論で片付け、着替え始めた。しかし、明らかに採寸が大きく、そもそも人の背丈ではまず考えて無いような程
大きい。
「着替え終わったかね?」
そう言うとまたもや壁は消え去り試験官の姿が見える。
「それでは飲んでくれ。」
俺は一度薬を見てから一気に飲み込んだ。
「その薬は直ぐに効果が出ると思うのだが……。」
そんな言葉を聞きながら俺の体の中では急速に体温が上がり、激痛が襲い始める。
「うぅ…!!うがぁあ…!」
ところが試験官はそんな俺をまじまじと見つめているだけであった。その最中で体も段々と変化して行き、体はどんどん膨らんで行くかの様に大きくなり、元あった身長の二倍近くになっており、皮膚が紅く変色し更には大きく、均等な菱形に割れていき光沢と同時に硬さを得始めるとそれは全身を覆う鱗になり、体全体の筋肉が変化した鱗質の皮膚の内側で、蠢きながらさながら「筋肉の鎧」かのように発達していく。
「ぐあぁぁああ!!ぐはっ!はぁっ‥!はぁあっ!!」
苦しみながらも体は自らを別の物へと変えていこうとする。今の俺にはこの力に抗う術など無く、ただ体の変化が終わるまでひたすら叫び続けるしか出来なかったそして変化は下半身から徐々に更に形を露わにしていく。骨盤が変形して背骨とその付近にある筋肉が共に伸び始めると形は綺麗に整っている太く長いしなやかな尻尾が姿を現す。足はふくらはぎから足先までが徐々に細くなっていき、逆に太ももから足の付け根辺りは大きく、より逞しく発達していく。
形状も以前の足の形から大きくなり、指の数も前三本後一本の鋭いかぎ爪のある指になり、体の変化は徐々に上半身へと進む。
「グルゥウアァァア!!!グゥ……、グゥッ…!!グゥアッ…!!!」
もはや自我を保てないほどの激痛が走り、本能に駆り立てられるように吼え続けているが一向に変化は終わらずに、上半身の変化が急速に始まっていく。背中の中心付近の二か所に縦方向に新しく形成された骨と共に徐々に出っ張り始め、それは変化した頑丈な鱗質の皮膚を軽々と引き裂くように皮膚の内側から濡れていたような湿った質感の、弱々しい翼が微妙に震えながら現れる。その翼は徐々に広げられていくと、体の二倍以上も目見当ではあるように思える。
紅く、所々細い血管が見える翼の幕は同時に体の一部であるのを感じさせる。その巨大な翼は一度目一杯広げられ、羽ばたくと激しい体の発熱で蒸発していなかった湿り気を振り払い、背中に密着するように折り畳まれる。胸辺りも骨格がより頑丈で太く、筋肉自体も胸筋が発達し、つけていた胸当てががっしりと少し余裕が無いようなくらいにまでフィットするようになり、それは首回りの変化も誘発して太く、それでいて長く伸びて行く。
「グギャァァアア……グゥ…ガァッ!!グハァァッ!!!」
既に顔以外は人では無い別な生き物になり果てており、変化の最後には、比較的整った顔立ちであった顔は鼻から下顎が骨格を急激に激しい音を伴いながら筋肉と皮膚と共に前方へ伸び始め形が粗方整うと、上顎の先端に鼻腔が形成される。口で吼えながらも鼻からは熱風の如く熱い吐息が激しく繰り返される。それに伴って変化した顎の形に合わせ舌が長く伸び両顎には鋭い歯、口先と口元からは鋭い牙が怪しく光り輝く。頭からは一対の光沢を併せ持った白い巨大な角が生える。
「グゥ…、グフゥ…!グルルゥゥ……!!……グゥォォオオオオオ…!!!」
俺は自らの本能と体の変化に歓喜の咆哮をあげ、それまで身体を襲う激しい苦しみのために閉じていた瞳が大きく開かれると、徐々に瞳孔の形が縦割れの紅い瞳へと変わっていき、その場で床に倒れ伏せ、口からだらしなく長く湿った舌と唾液を出しながら、そのまま意識を失った。
「よし……、彼は合格だ。新しい自室に運んであげろ。」
試験官がそう言うと俺は補佐官二人係りで巨大な担架に乗せられて試験室を後にした。
「………グゥォ…。俺は…一体…。」
長い間眠っていたような疲労感と脱力感、同時に体の隅から隅の感覚が鋭く感じられる。ぼやけていた視界も段々とはっきりと見えてくる。運ばれていた部屋は俺は知らない部屋であった。ベッドから起きると、意外に個室の割にはかなり広く、以前よりも物が少し大きく感じられた。
立ち上がるとそれは顕著にわかり、自分の視点の高さや先程も感じていた体の脱力感と感覚の敏感さが更に不思議な気持ちにさせていた。
「グルルゥ………、そう言えば……、そうだ、試験は…!!」
俺は飛び上がると机の上に置かれていた一枚の紙を眺めた。
「おぉ………、う、受かってる…!!やった、やったぞ〜!」
嬉しさの余り口を開けて大声を出していると最初はチラチラと最後には火炎放射のような激しい炎が口からでた。炎は直ぐに収まったが天井の壁紙を少し焦がすような感じになった。
「うわぁ!な、なんだ?」
急に口から出た炎にびっくりすると尻餅をついてしまう。しかし、何か感覚が違った。尻餅をついたのにも関わらず、一度何かに当たり、ワンクッション置いて床についた。しかしながら、同時に尻から後方までが床に付いているような感覚を覚えた。
「こ、これは…?!」
俺は今更ながら自分の肉体をじっくりと見渡す。鍛え上げられた以上に発達した筋肉、硬質な鱗質の皮膚、背中を見ると立派な翼と尻尾まで生えている。そして何より、顔を触って確認してみると爬虫類のような顔立ちにまるっきり変わっており、更には背中が見渡せるという事で首も長く延びていた。
「お…、俺は……、龍に………?」
そう、特殊突撃部隊「翔龍」とは龍人に変化して強靭な肉体、能力を得て、敵部隊を行動不能にするという部隊であったのである。ただし、龍人に体を変化させることは予想以上に強い精神力が必要であり、よって選ばれたメンバーの中でもふるい分けが行われるわけである。
こうして、俺の波乱万丈な新しい生活がスタートしたのであった。