砂塵の中で暁 紅龍作
 荒れ果てた砂漠地帯の丁度中央にある東の国のマーケット……。行き交う人々には笑顔と活気が漲っており、この悪環境の中に暮らしているとは到底思えない。その街の通路を二十歳ぐらいの変わった服を来た男と、16歳程度のまだ幼さが残った顔立ちの少女が次なる目的地を目指す為に出発準備をしていた。
「ねえ、今度は何処の街に行くの?」
 少女は私に問い掛ける。
『全ては貴女様の御命令に従います。』
 私はそう少女に伝える。

 この少女……、…名をコウと言う……と私は主従関係にある。出会ったのは彼女がこの世界に生まれ落ちてから数か月の事であった。
『汝と少女はいずれは共に旅をし、共に無くしたものを見つけるだろう……。』
 そうこの少女の父親である国王に言われたのは、まだ私も知識も浅く、成長途中であった。

―――――

「そうね……、じゃあこの西の国はどうかしら?」
 彼女が地図を指差し私に命令を下す。
『…貴女様の仰せのとおりに……。まずはこの町を抜け出さなくては行けませんね…。コウ様…、こちらへ…。』
 私は彼女の手を取り人込みの中を進んで行く。

 やっとの事でメインストリートを抜け、街のエントランスの広場へたどり着いた。
『コウ様…、さあ、こちらへ…。外は砂吹雪が凄いですから…こちらを身に纏ってください……。』
 砂塵に耐え得る事の出来る白いコートのような服を彼女に着させると、防砂ゴーグルを着け街の外へと出る。
『気を付けてください……。足下をしっかり確認して……。』
「もう、カイは心配性なんだから……。何回目よ…、砂漠の旅は…。」
 少し怒り口調で彼女は私に言う。、こす。 『しかし……、コウ様に何かありましたら私は……。』
 少し困ったように私も彼女に説明するが…。
「大丈夫よ。やっぱりカイは優しいのね。有り難う…。」
 いつもはもういいと怒ってしまう彼女も私との旅を通じて理解してくれたようだ。
『さあ行きましょう。少し長い旅路になりますから、無理せずに私にいつでも言ってくださいね。』
 私も笑顔で彼女に答える。彼女に不安を与えてはいけないと思ったからである。それからひたすらコンパスと地図を片手に目的地へと歩み行く。

 出発したのが早朝であったのにもかかわらずもう夕方になっていた。その頃には砂吹雪も止み、夕日が水平線に沈みゆく情景がまた物凄く綺麗であった。
「ねぇ………、カイ……。私疲れちゃった……」
 彼女がそう言いながら私の服をギュッと握り締めていた。顔には疲労感が滲み出ていた。
『そうですね……。辺りに人もいないですから……。少し待っててくださいね。』
 私は彼女にそう言うと砂の窪んでいる安全な場所で彼女を休ませる。そして私は辺りを確認し、誰もいない事を確認すると全身に力を入れる。すると全身から淡い光が発せられ私は人から姿変える……。 まずは骨格が音を立てて変化して行く……。人の、二足歩行に適した骨格から四つ足の獣のような骨格に変わる。
『ぐあぁ……。』
 激しい痛みを伴いながら変化して行く体。しかしまだ変化は始まったばかりであった。
 次に変化が現れたのは皮膚や筋肉であった。着ていた服が耐えられずに破れ去ると肌色の皮膚では無く光沢のある柔らかな黒い鱗質の皮膚になり、四本の足元には黄色い柔らかな獣毛が生え揃い、足先に前三本、後一本の指に変化しそれぞれに鋭い巨大な爪が生え、全身には四足歩行に適した筋肉が逞しくつく。
『ぐぉぉお……、ぅがぁぅ……。』
 獣の鳴き声のような声を発する。変化の終わりが近そうだ。尻の辺りから太く長く体の皮膚と同じ色の尻尾が生え始める。同時に首も長く伸び始め、それは顔の変化も誘発させる。
 鼻から下顎が全面へ骨格と共に伸びていく。前顎の先に新たな鼻孔ができ、口元からは鋭い牙と細かな歯が見え隠れし、時折呼吸をするために口を大きく開けると、細く長い舌が見える。顔の皮膚も体と同じ黒い皮膚になると彼の栗毛色だった髪の毛は徐々に足下の獣毛と同じ色になり、長く伸びると一部は首筋を通り、鬣になる。
 そして、瞳の色が虹彩が白く縦に光り輝き、その虹彩の回りが黒くなり、不思議な光を放つと同時に頭からは一対の白い角が生えると遂に彼の体の変化が終わった。

 グルルル……。喉を鳴らし、暫くその場で動きを止める。そして衝動に駆られ私は・・・
『グゥアオオオオオ!!』
 大きく咆哮すると、自分の姿を確認する……。
『……やはりこの姿の方が安心するな…。早くコウ様の所へ行かなくては…。』
 四つ足で歩き始めたと思うとあっと言う間に到着していた。

『……コウ様……、御体の具合は如何ですか……?』
 そう言って長い舌で彼女の顔を舐める。
「うぅ………ん…。か、カイ……?」
 コウが漸く目を覚ます。
『大丈夫ですか……?コウ様……。』
 不安そうな顔をして私は彼女を見る。
「まだ……。少し……。」
 やはりあの程度の休憩時間では疲れは取れないか……。と私は思いながら……。
『では、私の背で寝てください。街へ移動してゆっくり休みましょう。コウ様…。』
「そうね……。毎回その龍の姿になって……。本当に有り難う……。」
 彼女が力無い笑いを浮かべてくれている。

 ……そう、私はこの世界の人間では無い……。この世界が生まれてからすぐに誕生したと言われている『龍』と呼ばれている獣である。寿命も長く、知識がある龍種は人間と同様にこの世界を生きていた。そして彼女はその龍種と人とを結ぶ大切な存在……。
 私は彼女をこの世界のありとあらゆる事を教え、また自分の無くした物………。本来龍種にあるべき翼を探し旅をしているのであった。
『さあ、行きましょう…。しっかり掴まっていてくださいね。』
 私は次なる国へ向け、歩みを進めたのであった。


 完
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