龍のキセキ〜聖獣と闇獣の戦い〜・第3話暁 紅龍作
 神崎雄哉…。
 俺の記憶には、古くからの親友だという事が記憶として残されている。

 時刻は20時。あの戦闘後の帰り道である。
 しかし、あの不思議な感覚。そして直ぐに思い返せなかった自分自身。
「なぁガロン。闇の勢力は記憶を操作する事もできるのか?」
『あぁ、それぐらいならた易い。相手の目を直に見つめ、記憶を操作する事ができる。特に人間だと更に簡単だ。』
 だとしたら…俺に刷り込まれているこの記憶も、もしかしたら…。
 その時、携帯電話が鳴り響く。着信元は「神崎雄哉」。
「もしもし、竜崎だけど。」
『君は実に素晴らしい。他やすくガロンを撃破してしまうとはな…くふふ。』
「お前…、一体誰なんだっ!!」
『手紙渡しただろ?そこにくれば答えは見つかるさ…あははは…』
 通話が切れる。そう、この場所に俺はまだたどり着いていない。
「赤石先生、ガロン、そしてゴウエン…。もしかしたら…。」
「あぁ、恐らくこの世界に持ち込んだ邪竜は彼に宿っている。僕で構わないなら、精一杯の手伝いはさせて貰う。」
『俺も同じ考えだ、光太郎。その場所に行けば答えは見つかるっ!!』
 ゴウエンも了承してくれた。
「よしっ!行くぞ!」

 そうして、手紙の指し示すルートどおり進んで行く。
 そして辿り着いたのは、明かりも消された人気の無い広い公園であった。
「雄哉!!どこにいるんだ!!」
 俺は声を張り上げ彼の名を呼ぶ。
「そんなに大声出さなくたって、こんなに近くにいるじゃ無いか…くくく。」
 影からすぅっと現れたのは紛れもなく雄哉であった。
「君の考えは当たっているさ。そう、僕がこの世界にあの世界の憎悪を持ち込んだのさ…。」
 そうして俺らを覆い囲むように歪んだ黒い獣の群れが現れる。
「竜崎!!こいつ等は俺等に任せて、お前は神崎をっ!!ガロンっ!!現世っ!!」
 そうして赤石先生は純銀色の人狼へと姿を変えて行く。たなびく獣毛は逆立ち、邪悪なものを畏怖の念で押し殺す。
『ぐぉぉっ!!』
 戦闘が始まった…。

「どうして…この世界にこんな物を持ち込んだんだ…?」
 率直な質問を神崎にぶつける。
「なぁに、この世界が食い潰され、消えゆく様を見たかっただけだ。」
「でもそれは… 向こうの世界も消滅するのと同義ではないのかっ!」
 そう、写鏡であるこの世界が消えてしまえば、向こうの世界も同時に消えて行ってしまうのだ。
「我らは『新しい世界』を創造する。写鏡のいらない、恐怖と力で支配する世界をな…。」
「そんな世界…、本当に必要なのかっ!!」
「一度絶望を味わえば、それは蜜の味になるのさ…くくく。その世界に俺は君臨する。王者としてなっ!!」
 そうして彼は俺の喉元をぐっと掴みかかる。
「ウザったいんだよ…。光は邪魔なだけなんだよっ!!」
「ぐっ…。ぐはっ…。」
 こいつ、本気だ。

「ご…ゴウエン…現世っ!!」
 その場が一気に白いまばゆい光に包まれる。俺の身体が純白の龍へと変化していく。
「くっ…ならば…。」
『漆黒の邪竜よ 今ここに現世せよっ 出でよっ 邪竜・デモンっ!!』
 そうして彼の変化が始まる。黒いオーラに包まれ、そのオーラが彼の皮膚を黒く染めて行く。その皮膚はひび割れて、頑丈な鱗へと変化していく。首がしなやかに伸び、頭の形状も爬虫類のごとく変形 して行く。頭上には鋭く黒く光る龍角が現れ、耳はヒレ状に変化していく。体全体が数十倍にも大きくなり、筋骨が逞しく成長して行く。
 手脚は鋭い紅い爪が生え揃い、尻からは皮膚同様に鱗に覆われた尻尾が形成される。そして最後には背から蝙蝠の翼のような薄膜が張った翼が現れ、変化が終った。
『ぐぉぉぉぉぉぉ!!!!』
 邪悪なオーラを放つその漆黒の邪竜は、現世した途端に咆哮を放つ。それは世界を変えて行ってしまう程であった。
『こいつは…。』
『邪竜・デモン…!!』
 ゴウエンとガロウが黙り込んでしまう程の威圧感が周りを包み込む。
『こいつ…封印されていたのに…!!また復活したというのか…!!』
 以前の邪竜戦争でこの邪竜はゴウエンに封印されていたはず…。しかし、この場に存在して居る…。
『ふふふ…あれ位の封印など他やすく破れるわ…。くくく…。』
 邪竜の不適な笑みが反響する。
『こっちはどうにか終ったぞっ!』
 ガロウの声が響く。あれだけの敵を一人で倒せるとは…。
『俺も居る、今度こそ、完全に封印するんだ!!ゴウエンっ!!』
『分かった!!』
 そうして二匹は邪竜の両脇につき。呪文を唱える。
『聖なる龍の加護の元!』
『我らは誓う 』
『『浄化の儀 プリフィー・ウィンドッ !!』』
 1人では無理かもしれない。でも今の俺等は4人いるのだ。仮に獣の姿をした2匹だとしても。

 大きな翼が書き出す文様。
 様々な文字の羅列が円上に展開され、ぐるりとゆっくり回転して行く。それは同時に邪竜を地面へとひきづりこむかのように…。
『ぐっ…小癪な…っ!!ぐぉぉぉ…!!!!』
 断末魔の声をあげ、邪竜は地面へと消えて行った。そうして変化が起こる。黒いオーラを文様が吸収して行く。それは世界に拡散した黒い獣までもが吸い込まれて消えて行く。
 そうして全て残った後には…1人の青年が横たわっていた。
「雄哉…?」
 すぅっと俺等は変身を解き、横たわる彼へ向かう。
「……っぅう…、僕は一体…。」
「気分はどうだ…?」
 俺は優しく問いかける。
「あぁ…大丈夫なんだけど…君は…誰…?」  そうか、邪竜に心も身体も支配され、それまでの記憶が無いのだろう。
「安心しろ、君の心に宿っていた邪竜は俺等が封印した。」
 そう、今度こそ完璧な封印で。二体の聖なる獣による封印は、邪悪で強大な力に打ち勝ったのである。
「僕は…、なんて事をしてしまったんだ…。僕の心に隙があったから…。」
「誰でも隙はできる。その隙を埋めてくれる仲間に、俺はなる。俺じゃぁ役不足か?」
 にんまりと笑い、彼の手を引く。
「友達に…?」
「あぁ、勿論さ…。」
 そうして彼と俺等の、短いようで長い戦争は終わりを告げたのであった。

 それから数週間後、雄哉は正式に俺の通う高校へ編入する形となった。彼を絶望の淵へと陥れたのは友達の裏切りであった。彼を救えるのならば、俺はどんな事でもするだろう。
 それは同時に、世界を救う事にもなるのだから。


ー終ー
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