「なぁ、ゴウエン。俺の親父とはどんな関係だったんだ?」
風呂に入りながらそんな事を聞く。
『光太郎の父上とは、前回の邪竜戦争でパートナーだった。強い意思を持った、強い人だ。』
そんな事を聞きながら、身体を確認してみる…。あんなに傷を深く負っていたのに、これっぽちも痛みも無い。傷は多少は残っているが、これぐらいなら平気だ。
そして背中を洗っていると…
『「がぅぅぅぅっ 」』
二人して痛いような、気持ちの良いような不思議な感覚に襲われ、声を漏らした。
『はぁはぁ…。背にはな、龍族の明かしである逆鱗があるんだ。気を付けてくれよ?』
そんな所が変わってしまったのかと不思議に思いながら、今後は気をつけなければならないと思った。
そうして風呂を上がる頃には既に時刻は6時半であった。
「あら、こんな朝早くにお風呂?寝汗かいちゃったかしら?」
母は相変わらずの応対で良かった。
「ちょっとね。」
直様上着を着て、逆鱗のある部分を隠す。きっと、これを見られたら直様病院に担ぎ込まれる。 それではゴウエンとの約束も、俺の約束もダメになってしまう。
そして朝の変わらない光景。ただ、やはりテレビだけは非日常的なニュースを映し出していた。
『早く…食い止めなければ…。』
それは俺も一緒だ。平穏を取り戻さなければならない。
そして時刻は午前10時を迎えていた。
「光太郎〜、学校から電話よ〜?」
そんなバカな、冬休みのために全て単位はとっていた筈…。
「もしもし。お電話変わりました。」
『あぁ、光太郎君かい?物理担当の赤石だが。』
しまった…。物理落としてたのか…?
『今日の19時に物理室で緊急補習を行うので来るように。くくく…。』
そう言い残し電話は切れてしまった。
『光太郎、今の電話口から、邪悪な気配を感じ取れた。行って確かめなければ。』
確かに何時もの赤石先生のような感じではなかった。まるでマッドサイエンティストのような感覚。
「うん、行こう。」
学校に到着したのは午後6時半。だが校舎には明かりは無い、人もいない様だ。
「どうなってるんだ…?」
「こうなってるんだよっ 」
いきなり大声で現れたのは赤石先生であった。いや、赤石先生の姿をした別物にも感じれた。
「会えて光栄だよ、ゴウエン…?」
突如ゴウエンの名を呼ぶ赤石先生…。
『こいつ… 復活していたのか ガロウ!!』
敵意を示す赤石先生。
そして彼の変化が始まった。
まず着ている衣服が全て膨張する身体に耐えきれずにボロ布になっていく。そこから現れたのは漆黒の獣の毛。そして顔が見る見るうちに変化していく。鼻から中心にかけてが突き出る様になり、先端で新たな鼻孔が作られる。
耳は頭上にあがり、三角耳がピンと立っている。手脚は筋肉が張り詰め、鋭い爪が両手足に生え揃う。そして、尻からはボサボサの尻尾が生えて、彼の変化が終わった。
「狼男…?」
そう、今の彼の姿は、まさしく人狼であった。
『ガロウっていう悪知恵が働くわりぃ狼男さ。まさか復活していたとは思わなかったぜ…。』
「アォォォォォォ〜〜〜〜〜ン!!!!」
そう咆哮すると、閉じていた瞳をぎんっと開く。憎悪に満ちた赤い瞳。
『悪知恵とは人聞きの悪い…。知恵の働く頭のいい人狼といいなっ!!』
そうしてヘッドアタックをしてくるガロウ。
「ぐふっ…!」
直撃して地面に思いっきり叩きつけられる。
「ゴウエン…!!!!」
『おうよっ!!!』
「我、光太郎!契約に基づき現世する!出でよっ!ゴウエンっ!!」
そして光太郎も変化していく。
珠がはじけ、辺りは白く光り輝く。白い素肌は見る見るうちに純白の鱗に変化していく。2回りほど大きくなる身体を支えるかの様に筋骨発達し、尻からはしなやかな尻尾が生え揃う。首が伸び、偏平していく顔。龍族独特の顔つきになっ
ていく。そして、純白の羽毛に覆われた翼が背から現れ、光太郎の変化は終わった。
「『行くぞっ!!ガロウっ!!』」
ゴウエンを信じ、俺はガロウに突っ込んで行く。ゴウエンは爪を迫り出す形でガロウの胸元へ突き出す。しかし、ガロウの頑丈な獣毛に阻まれ、上手く攻撃ができない。
『く…このけむくじゃらめっ…』
がんじがらめの状態になるが、ゴウエンは尻尾をその隙に力強く振り回し、ガロウのわき腹に直撃させる。
『ぐっ…、このトカゲもどきめっ…!!』
一旦離れたところでジワジワ距離を近づいて行く2匹。
(次の一手で決まる…!!!)
そう自然と思えた瞬間だった。
『『ウォォ!!』』
『喰らえっ!!クロスクロウ!!!!』
『いけぇっ ハウリングアタックっ!!!!』
二匹が交互に交わる。
そして、暫くの沈黙のうち、勝ち残ったのはーゴウエンだった。しかし、攻撃を受け頑丈な鱗肌から鮮血が漏れる。一方のガロウはそのままゴウエンの攻撃を受け、直撃を喰らい気絶していた。
『相変わらず、詰めが甘いな、ガロウよ…。』
『くっ…ゴウエン…。』
『今宣言するっ!!浄化の儀!プリフィー・ウィンドっ!!』
翼を大きく広げ、上空高くの空気を圧縮し、一気にガロウに翼ごと覆い被せる。
『ぐっ…ぐぉぉぉぉぉ!!!!』
そうして暫くして翼を閉じる。そこにいたのは、まるで先ほどとは真逆な程美しい銀色の獣毛に覆われた人狼が横たわっていた。
『ガロウは元はこんな人狼なんだ。誰かに憎悪の術を掛けられ、操られていた様だ。』
「そうだったんだ…。」
確かに古くからの親友の様な声のかけ方だった。そして、人狼は目をさます。その瞳は純水で満たされたかの様な濃い青であった。
『すまない…、また手を煩わせてしまった様だな…。』
ガロウは正気に戻った様である。そしてお互いに変身を解く…。元の姿へと。
「赤石先生…!!」
光太郎は彼の下に向かう。
「私は、ある物質を調べる様に闇族から依頼されていた。この物質だ。」
『これは…。「デーテスト・ストーン」…憎悪の固まりだ…。』
「これを眺めていると段々と自分を見失って行った。自分自身も、ガロウもだった…。」
「これ、誰に渡されたんですか!?」
「ここの学生ではなかったな…。」
『カンザキユーヤっていうやつだっただろ、思い出してくれよ、赤石マスター。』
「!!!!」
神崎雄哉…。
まさか彼の名を聞くとは思いもしなかった衝撃であった…。