龍のキセキ〜聖獣と闇獣の戦い〜・第1話暁 紅龍作
 その日の夢は、いつも見ている夢とは違い、実感があった。
 リアルな感覚。そこに居るという感覚。目の前に居る見なれた石碑が神々しく光り輝き。そして俺に話しかけて居る。かすかにだが、その声が聞こえるのだ。
『汝…、汝は我の写鏡…。』
「それは…一体どういう意味なんだっ!」
『汝と会える日を…待ちわびて居る…。』
 その時、一気に光り輝き何もかもがホワイトアウトして行った、俺も例外なく…。

 時間は7時。いつも通りの起きる時間だ。しかし、あの夢を見てから数分も経っておらず、記憶が多少混乱して居る。
『汝と会える日を…待ちわびて居る…。』
 この言葉を残して、あの見なれた石碑は言葉を失った。石碑は今も黙ったままだ。
 この石碑は、この神社の御神体でもある。黒曜石に干ばつを救った東洋龍神が掘られている。
「おや、光太郎。おはよう。」
 父の、名前は宗雄。いつも通り神主の仕事を済ませて母屋に戻る途中であった。
「御神体様は今日もこの地を潤し、見守ってくださって居る。光太郎も私が代を譲る時には、御神体様のお話をしなくてはならないな。」
 そう父は御神体様を見つめ話しかける。
「うん。そうだね…。」
 そう呟いて俺と父は母屋にむかった。

「あら、二人一緒なんて珍しいわね。ふふふ。」
 そう母屋へ帰った俺らに話しかけたのは母の名前は涼子。
「「ちょっとね。」」
 二人して同じ事を言うとは。やはり俺は父に似たのかもしれない。
 その後は毎朝の光景だ。母の作った朝食。新聞とテレビを交互に見ながら食事を取る父。制服に着替え、朝食を取る俺。ただ、テレビだけはいつもとは違っていた。
『速報が入りました。本日未明に連続他殺事件が発生した模様です。』
 しかもそれはこの街で起こっている事件らしい。
『また、遺体には鋭利な獣の爪跡が残されており、警察で現場近くを捜索している模様です』
 まさかあの夢とは関係なんて無いよな。そう思いながら、俺は朝食を終えて学校へ出発する準備をしていた。
「はい、いつものお守り。なんか物騒だから気を付けるのよ?」
 そう不安そうな声を出す母。そして手渡されたお守り。中には珠が入っている。それをつけ、出発する。
「行ってきます。」
 県立高校まではそう遠くは無い。自転車で20分もかからない。高校に近づくに連れ、ワクワクする。それもそうだろう。今日で2学期は終了。明日からは冬休みなのだ。
 そして、最終日の教室に辿り着く。冬深くなる前の、何となく寒い教室に見なれない姿があった。
「えっと、君は…?」
 そうして振り向いた彼は何処か不思議な感覚を持ち合わせている。
「何寝ぼけているんだよ、光太郎君…?」
 …あぁ、そうだ。こいつは幼じみの…。
「雄哉。神崎雄哉。全く、頭起きてるのか?」
 …そうだ。雄哉である。全く、浮かれすぎているのであろうか。そしてホームルームが始まる。
『えぇっと、みんな知っているだろうとは思うが、この街で痛ましい事件が起きている。ついては…。』
 と、担任からの浮かれすぎない様に、遅くなる時は親に連絡をキチンと入れる等、いつも通りの決まり文句が溢れる。
 …しかし、なぜ俺は雄哉の名を直ぐに思い出せなかったのだろう。それだけの疑問を残し、今日の講義は終った。
「さようなら、先生。年賀状出しますからね!」
 そうして教室を後にする俺。すると雄哉に呼び出される。
「今日、夜9時に用事がある。一緒にきて欲しい。」
 そう手渡されたのは待ち合わせ場所の公園までの手紙。家からはそう遠くは無いが、こんな時間に…?
「まぁ仕方が無い。いいよ。」
 そう約束を済ませて学校を後にする。

 帰宅後はフリーな時間だ。神社なだけあり、母屋と神殿とはかなりの距離がある。
 あの夢を確かめるんだ。そう御神体の前で思い返す。
すると、突如付けていたお守りの珠が光り輝く。
「うっ…うわぁぁぁ!!!」
 ホワイトアウトと同時に何かが身体へと流れ込むのを感じ、意識がそこで途切れた。

「…おい…!光太郎!大丈夫か!?」
 そっと目を開くと父が心配そうに見つめている。
「うっ…うん…大丈夫だよ…」
「ちょっと横になってた方が良いんじゃあないか?」
 そう進められて俺は自室に戻る事になった。ベッドで横になっていると、ふと右手首が暖かく感じる。見つめてみると、お守りが白い真珠の様に変化しており、鱗状の彫りがある物になっていた。
「これは…。」
 何か起こりそうな、そんな感覚を覚えながら一休みするのであった。

 時刻は夜8時半。そろそろ雄哉が待つ時刻だ。門限はとっくにすぎているので、勝手口からそっと出る。雄哉から手渡された手紙にはわかりやすい様にルートまで書かれていた。
 そのルート通りに夜道を自転車で走って行く。その途中、切れかけた蛍光灯が永遠と続く道があった。そしてそこを慎重に通過しようとする俺。しかし、そうやすやすとは行かなかった。飛び出してきた1人の男性。
「ひっ…ば、化け物… 」
 男性を襲う黒い影。人の形状ではなく、歪んだ獣の様な影。それが段々と数を増して行く。それは俺を含めた生きる者を食いつぶして行きそうな 程凶暴で、凶悪そうな意思を示していた。
 そして一気に俺に襲い掛かる。腕を噛みちぎられそうになるが、振りほどく。鮮血が迸る。痛みを伴って。その隙を狙い、影の獣は脚を狙ってくる。関節がひしゃげる程の痛み。常人では死に絶えているぐらいの痛み。
 …俺は…ここで死ぬのか…?
 絶望のみが垣間見得る状況。
 その時、右腕が思いっきり光り輝いた。
『光太郎… 俺の声が聞こえるか?!』
 誰かの声が聞こえる…。
「だ…誰…?」
『夢で会っただろ、お前の守護龍・ゴウエンだ。』
 あの夢を…。本物だったのか…。
 意識が途切れ途切れになりつつある。
『今のお前だけではダメだ。俺に…任せてみないか…?っとそんな余裕もない様だな、ならば…っ 』
 ジワジワ寄ってくる、獣の影たち。
『我!ゴウエン!契約者光太郎の下、降臨するっ!』
「うわぁぁぁぁぁあああ!!!!」
 とてつも無い力がこみ上げてくる。光の様に暖かく、力強い力が。珠がはじけ、一気に真っ白に光り輝く俺の身体。
 そうして身体に変化が生じる。
 真っ白になった俺の皮膚は、徐々に鱗状にひび割れて行き、硬く白く輝く鱗へと変わる。首が徐々に伸びやかに伸び行き、顔は鼻から下顎までが前部へ伸びて行き、上あごの先端部に新たな鼻孔が作られ、元あった歯は形状を鋭く、そして顎の形状にあった大きさの物へ変わって行く。舌も細長く代わり、頭の形状も、爬虫類のような、偏平した形状になる。
 手脚は獣の如く、逞しく筋肉が張り詰め、手には鋭い爪が生え揃い、脚は若干長くなり、踵が浮き上がると、それは新たな関節となる。脚にも手同様に鋭い獣の爪が生え揃うそして俺の体にはなかった物が現れる。尾てい骨が付近の筋肉と共に伸びて行き、それはしなやかな尻尾へと変わる。
 更に背からは肩胛骨の付近からバサッ っと大きな翼が現れるそれは純白の羽毛を伴いながら現れ、俺の体を優しく包み込む。
「我、降臨。」
 その姿は、純白。純白の竜人の姿であった。俺は何を言っているのかわからなかった。ただ、目の前の獣たちが邪悪なオーラを帯びているのだけは分かった。
『光太郎、今のお前は俺でもある。だから、俺が手伝ってやるから、こいつ等を浄化し、成仏してやるんだ。…それじゃあイクゾッ!!』
「グルォォォォオオ!!」
 身体から湧き上がる力を信じ、咆哮する。その声に感化されたのか、黒い影の獣たちも一斉に襲い掛かってくる。尻尾を使い、一蹴する。一部の獣達は力を失い、成仏していく。残った獣達が一斉に影に潜む。そして再び襲い掛かってくる。今度は鋭い爪で切り裂く。残った獣は徐々に後退していくが…。
「『グゥォォォオオ!!!』」
 そして口を目一杯開き放った業火。一瞬で獣達は消し飛んでいた。
「俺は…どうなってるんだ…?」
『お前の写鏡である俺の体になったんだよ。一時的にだがな。』
 両手を見つめる純白の竜。
 そこに突如、パトカーのサイレンが響き渡る。
「後の話は移動してからだ!飛ぶぞっ 」
 バサッと翼を展開し、いっきに羽ばたき、その場から一瞬で飛び去る。
『くふふふ…、面白い展開になったものだなぁ…』
 そう呟きながら後にする人影があった。

 付いた場所は竜崎神社。俺の家だ。と言っても本殿前なので人は全くいない。
『ついにこっちの世界にも影響が出始めてしまったか。畜生…。』
「こっちの世界…?影響…?」
『あぁ、光と闇の戦争がな…。』
「光太郎かい…?」
 突如、聞き覚えのある声が聞こえる。父だ。この姿を見られてしまうのはまずい。
『元に直ぐ戻して!』
 そうして俺の身体はすぅっと元の人間の姿に戻った。
「なんだ、やっぱり光太郎か。…そして、また始まったのか。やはり…。」
 父には分かってしまったようだ。俺の変化と、世界の変化に。珠が光り、右腕がすぅっと浮き上がる。
『はい…、その通りです。お久しぶりですね、宗雄。』
「ゴウエン。今度はどうするつもりかね。光太郎の身体を使って。」
『この世界に火種を持ち込んだ人物を割り出し、こちらの世界へ戻します。そのためには光太郎…貴方の息子の力が必要です。』
「なる程…。光太郎。ちょうど良い。ゴウエン…お前にも見えているだろう、白い竜だ。その竜の事も交えて話をしなければならぬ。」
 そうして、俺の戦争が始まったのであった。


 続