「うがぁ…!!や、止めてくれ…!」
ある研究室の一室からただならぬ人の悲鳴が聞こえる。そう、紅石本人の声だ。
「大人しくするんだ!!おい!麻酔を掛けろ!!」
研究員がメディカルセットの中から注射針を手に迫ってくる。
「な、何を…!う…、ぐぅ……。」
注射され、意識が遠のいていき、ぐったりとその場で倒れる。
「実験台へ運べ!!キチンと拘束具を着けるんだ!!」
研究員のリーダーらしき人物が各研究員に指示を出す。
「くく…。今回の素体は生きが良い…。楽しみだ…。」
と、不敵な笑みを浮かべ実験室に入る。
「おい、麻酔を解いてやれ。お目覚めの時間だ。」
またもや注射をして強制的に起こされる。
「……、うっ……。」
「おや…、目が醒めたようだ。気分はどうかな…?くく……。」
「っは!離せっ…!!、!!か、体が動かない…!!」
「君が眠っている間に拘束具と局部麻酔をかけておいた。両手・足は動かないぜ…。」
「お、俺をどうする気だ!!」
「なぁに、君には今から実験体になってもらうのさ…。」
「!!」
「百聞は一見に如かず…、早速取りかからせて貰うよ…。」
「や、止めろ!!や、止め…、ぐはぁ!!ぐっ……。」
大きな注射針で薬を打たれ、体が熱く激痛が走る。
「うぐぁぁ!!ぐ、ぐぅ!!」
体が小刻みに震え始め、遂に変化が始まる。体の至る所から筋肉が体内で蠢き、体が獣の、いやそれ以上の筋肉質な体へ変化する。同時に皮膚からは獣のようなグレー、光の加減で銀にも見えるくらい美しい毛が全身に生える。腰の辺りからは太く、そして長い、毛で覆われた尻尾が勢い良く飛び出す。手足も爪が黒く、太くて鋭い物になった。首も太くなると、顔にも変化が起きた。
耳が頭の上へ移動すると、三角形の大きな物になり、鼻と顎が前に伸び、口元の間からは鋭い牙、生えそろった歯と長い舌が見える。目も眼光が鋭い、金色の瞳になり、変化が終わった。
「グルルゥ…、…お、俺は…。」
「おっ?!まだ自我が残っていたか…。珍しいが、無駄なものだ。」
「な、何を!!」
口を無理やり開けさせ、薬のような液体を流し込む。
「や、止めろ!!俺に、何を……ぐぁああ!!」
「薬の効き目が出てきたな…。」
叫び声をあげて狼人が悶える。
「あぁ…、自分の意識が……、と、溶けていく……。あぁぁ………!!!」
狼人が一際大きな声で叫ぶと、目を閉じ、意識が無くなった。
「よし……、目を開くんだ……。」
「はい…。」
狼人は紅石とは違った、図太い声を出し、研究員の命令を聞き、瞼を開き拘束具を外され台から立ち上がり、研究員の足元に膝まつく。
「お前の名は今からガルマだ…。」
「…はい。わかりました…、創造主…。」
狼人となった紅石は薬によって何者かに意識を乗っ取られ、新たな名を授かった……。
「くく…、今回も上手くいった……。」
研究員は白衣とマスクを取ると、スーツ姿となった。何と、組織のリーダー自身が改造手術に出ていたのであった。
「……。それからは君の学校へ行き、そして君を……。」
紅石が光太郎へふさぎ込むように話した。
「そんな事が…。」
光太郎と壕焔があまりの出来事に言葉を失う。
「でも、今はこうやって元通り(正確には違うわけだが)の生活を送っている訳だし、大丈夫だよ。心配かけて悪かった。」
「そうですか…。それだったら良かったです!!俺みたいので良ければ話しは幾らでも聞きます!な、壕焔!!」
(ああ、同じ境遇だしな…、力になるぞ!)
「有難う…!本当に打ち明けて良かった。」
夕暮れの夕食時……。少し信じれない話しをしながらも、光太郎は今ある楽しい一時を目一杯楽しんだ。