龍のキセキ〜先生の秘密〜紅龍作
 紅石先生とのバトルから数日が経過し、二人と一匹の傷もだいぶ癒えてきた、そんな頃…。休日を利用して紅石は光太郎(壕焔も)をまたもや夕食へ誘った。
「今日は突然呼び出して悪いな。」
 紅石が光太郎と壕焔に言う。どうやら獣化の影響で紅石にも壕焔が見えるし、話していることも分かるようだ。
「こんな所で話すのも何だから、またファミレスにでも行くか。」
「そうですね。」
 紅石の車に乗り込み、ファミレスへ移動する。
「じゃ、まず座って…。」
 紅石が光太郎を席に座るよう言う。
「は、はい♪」
 光太郎が言われて席に着く。
「何か適当なもので良いから頼みなよ。」
「本当ですか〜?なんだか悪い気が…。」
 申し訳なさそうに紅石に聞く。
「別に気にしなくても良いよ。」
 紅石が気さくに言う。夕食を食べながら、光太郎は前から気になっていた事を話し始めた。
「前から気になっていたんですけど、先生はどうやって獣化できるようになったんですか?」
 すると、紅石は、
「私も前々から言おうかと思っていたんだが、やっと決心が付いてな。それを伝えようと呼び出したんだ。」
「それで、一体…。」
 光太郎が真面目な顔で聞く。
「実はあの組織に捕らわれ、そして人体実験されこの力がついたのだよ…。」
「!!」
 光太郎と壕焔が驚いた顔で紅石を見つめる。
「じゃあ、あの壕焔と出会った神社で襲ってきた獣人も…。」
 恐る恐る、そうであって欲しくはないと思っていたが、
「恐らくそうだろう。私と同じく元は人間…。ただ、実験の過程で人格が消滅してしまったのだと思う。あれは凄まじかった…。」
 紅石がうなだれながら、自ら受けた実験の様子を克明に打ち明けた。

「うがぁ…!!や、止めてくれ…!」
 ある研究室の一室からただならぬ人の悲鳴が聞こえる。そう、紅石本人の声だ。
「大人しくするんだ!!おい!麻酔を掛けろ!!」
 研究員がメディカルセットの中から注射針を手に迫ってくる。
「な、何を…!う…、ぐぅ……。」
 注射され、意識が遠のいていき、ぐったりとその場で倒れる。
「実験台へ運べ!!キチンと拘束具を着けるんだ!!」
 研究員のリーダーらしき人物が各研究員に指示を出す。
「くく…。今回の素体は生きが良い…。楽しみだ…。」
 と、不敵な笑みを浮かべ実験室に入る。

「おい、麻酔を解いてやれ。お目覚めの時間だ。」
 またもや注射をして強制的に起こされる。
「……、うっ……。」
「おや…、目が醒めたようだ。気分はどうかな…?くく……。」
「っは!離せっ…!!、!!か、体が動かない…!!」
「君が眠っている間に拘束具と局部麻酔をかけておいた。両手・足は動かないぜ…。」
「お、俺をどうする気だ!!」
「なぁに、君には今から実験体になってもらうのさ…。」
「!!」
「百聞は一見に如かず…、早速取りかからせて貰うよ…。」
「や、止めろ!!や、止め…、ぐはぁ!!ぐっ……。」
 大きな注射針で薬を打たれ、体が熱く激痛が走る。
「うぐぁぁ!!ぐ、ぐぅ!!」
 体が小刻みに震え始め、遂に変化が始まる。体の至る所から筋肉が体内で蠢き、体が獣の、いやそれ以上の筋肉質な体へ変化する。同時に皮膚からは獣のようなグレー、光の加減で銀にも見えるくらい美しい毛が全身に生える。腰の辺りからは太く、そして長い、毛で覆われた尻尾が勢い良く飛び出す。手足も爪が黒く、太くて鋭い物になった。首も太くなると、顔にも変化が起きた。
 耳が頭の上へ移動すると、三角形の大きな物になり、鼻と顎が前に伸び、口元の間からは鋭い牙、生えそろった歯と長い舌が見える。目も眼光が鋭い、金色の瞳になり、変化が終わった。
「グルルゥ…、…お、俺は…。」
「おっ?!まだ自我が残っていたか…。珍しいが、無駄なものだ。」
「な、何を!!」
 口を無理やり開けさせ、薬のような液体を流し込む。
「や、止めろ!!俺に、何を……ぐぁああ!!」
「薬の効き目が出てきたな…。」
 叫び声をあげて狼人が悶える。
「あぁ…、自分の意識が……、と、溶けていく……。あぁぁ………!!!」
 狼人が一際大きな声で叫ぶと、目を閉じ、意識が無くなった。
「よし……、目を開くんだ……。」
「はい…。」
 狼人は紅石とは違った、図太い声を出し、研究員の命令を聞き、瞼を開き拘束具を外され台から立ち上がり、研究員の足元に膝まつく。
「お前の名は今からガルマだ…。」
「…はい。わかりました…、創造主…。」
 狼人となった紅石は薬によって何者かに意識を乗っ取られ、新たな名を授かった……。
「くく…、今回も上手くいった……。」
 研究員は白衣とマスクを取ると、スーツ姿となった。何と、組織のリーダー自身が改造手術に出ていたのであった。

「……。それからは君の学校へ行き、そして君を……。」
 紅石が光太郎へふさぎ込むように話した。
「そんな事が…。」
 光太郎と壕焔があまりの出来事に言葉を失う。
「でも、今はこうやって元通り(正確には違うわけだが)の生活を送っている訳だし、大丈夫だよ。心配かけて悪かった。」
「そうですか…。それだったら良かったです!!俺みたいので良ければ話しは幾らでも聞きます!な、壕焔!!」
(ああ、同じ境遇だしな…、力になるぞ!)
「有難う…!本当に打ち明けて良かった。」
 夕暮れの夕食時……。少し信じれない話しをしながらも、光太郎は今ある楽しい一時を目一杯楽しんだ。


―終―
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