「ハァハァ…。」
「フゥフゥ…。」
激突からどれだけ時間が立っただろう。青竜と白虎は互いに体中で息をしていた。いつの間にか青竜も白虎も体が短くなり、両手足が長くなっている。とりわけ青竜はタテガミはやや短くなり、全身が細く丸みを帯びている。さらにその腰は少しくびれ、胸にはやや大きめのふくらみが浮かんでいる。
オスの虎人となった白虎とメスの竜人となった青竜はどちらからともなく歩みよると背中合わせに座り込む。しばし両者の間には沈黙が流れたが、互いにどちらからともなく、
「…わ、悪かったな…。」
「…こ、こちらこそゴメンね…。」
と声をかけ合う。
「…だって、会ってそうそう「おれの好きな球団が優勝した」と言って、延々その球団の自慢話ばかり…それに、わたしが好きな球団まで悪く言うんだもの、さすがに怒るわよ。」
「まあ、確かにお前があの球団のファンだったって事は知ってたけど、つい嬉しくなってはしゃいじまってさ…。」
そう言いながら白虎はガクンと頭を下げる。しかし、
「でも、お前もあそこまでキレる事なかったんじゃないか?おかげで見ろよこの傷…。」
とワザと体中に負った傷を見せる。青竜も負けずに、
「それを言ったらあなただって女の子の体を傷ものにしたのよ。ここじゃなくったって「責任取って」と言いたくなるわよ。」
と傷を見せる。
「なんだよ!」
「なによ!」
そう言いながらにらみ合うが、ほんの数秒で、
「プフッ…。」
「クスッ…。」
どちらからとなく笑い出す。そして、
「改めて…悪かったよ。」
「ホントに…ゴメン…ね。」
そう言って肩を抱き合った。そして…。
ペチャペチャ…ピチャピチャ…。
互いが互いに傷を舐めあい出す。さながら壊れた鎖を繋ぎ併せるように…。そうして行くうちに青竜と白虎の体は舐めた所から溶け合うように混じりあう。そして溶け合いながら一つの卵のような姿になる。その中で二人は互いの「本来の姿」で向き合うが、互いに手を伸ばそうとした瞬間二人の意識はかつていた場所に引き戻されていた。
「ふぅ…。」
ベッドの上で卵の中にいた時と同じ様に一糸まとわぬ姿で丸くなっていた水木香澄はまだだるさの残る体を起こす。
「うっ。」
本当は傷一つないはずなのになぜか痛みが走る。でも、今となってはどこか少し愛しい。軽く微笑みながらすっかりたたまれている巻物を片付け、シャワーを浴びに行く。
そして、寝間着をまとい雫の残る髪を拭いながら部屋に戻り、ふとパソコンをつけるとメールが入っていた。その内容を見た香澄はクスッと微笑むと、パソコンに入っているインターネット対戦野球ゲームをスタートさせる。相手はもちろんさっきまで傷まみれで戦っていた「大好きな宿敵」である…。