光の一族カギヤッコ作
 夜のとばりに包まれた町。その人気のない一角で何かが揺らめいた。その中からいくつかの光が飛び出すと町中に飛び去ってゆく。
 ある光がとある公園にあった西洋竜の像に入り込む。するとその竜の像にみるみる鮮やかな色合いが宿り、咆哮と共に空に飛び立つ。
 またある光は長い樹齢を持つ木に入り込むとその木はみるみる茶色の鱗を輝かせた東洋竜となり天に昇ってゆく。
 さらにある光はフィギュアショップに展示してあった竜の模型に入り込み、入った時と同様にウインドウガラスをすり抜けいずこへとなく飛び去っていった。
 そんな中、ある光は宿るべき相手をさがして町中をさまよっていた。その光は他の光とは違い何か別のものを元に体を作りたいと思っていた。自分達の姿とは似てもにつかぬもの、それを元に…。そう思いながら飛び回っていた光が一瞬揺らぐ。感じたのだ。自分の体にふさわしい存在の感覚を。光は喜び勇んでその先へ飛んでいく。
「スゥー…スゥー…。」
 光の先にあるもの。それはベッドの上で静かに寝息を立てる一人の少女の姿だった。光のいる世界ではついぞ見ない存在。光の輝きがより強くなる。そして光はおもむろに少女の体内へと飛び込んでいった。
フワリ…。
 すると、少女の体が静かに浮かび上がる。そして、一瞬光に包まれるとまるで歌舞伎の早変わりを見るかのように来ていた寝間着がすり落ち、少女は白い裸身をさらすが少女自身はそれに気づく様子はない。
 サワサワ…ザワザワ…。
 ふいに彼女の全身が震えると、その肌からジワジワと産毛が伸び出す。産毛は白く変色しながら長くなり、見る見るうちに真っ白な毛皮に覆われた少女の裸のラインが現れる。
ムクッ、ムクムクッ。
 首から下がさながら全身タイツのように白い毛皮に覆われた所で両手と両足が変化し始める。手足の指は黒く染まりながら細長く伸び出し、特に膝から下がが鳥の様な形に変化する。さらにお尻からふわふわの獣毛に覆われた尻尾が生える。同時に同じ様にふんわりとした獣毛が胸元の二つのふくらみを包む様に伸びている。
ピクッ、ピクピクッ…。
 両耳が震え出すと長く、広く伸びてゆき、同時に口元も鼻を飲み込んで長く伸びる。黒髪もいつしか青く変色している。
ムクッ。
 頭頂部から可愛らしいながらもしっかりとした一対の角が生えると少女は浮かんだままの姿勢で体を起こす。そして、静かに目を開けて鏡を見つめる。
 爬虫類を思わせる手足に長い尻尾、そして顔つき。頭の上には一対の角が生えている。その姿はまさに竜だったが、彼女の場合はどこか違っている。鱗の替わりに全身を覆う白い獣毛。ただたくましいだけでなく繊細さと美しさをも兼ね備えた両手足。しなやかさと強さに加えて柔らかさをも感じさせる尻尾。しなやかなタテガミにパッチリした大きな瞳…それは竜の様であり、そして人の様でもあった。
サワ…。
 少女は両手でそっと全身をなでる。そしてウンッと力強くうなずきながら体を抱きしめる。この時点で少女は既に少女ではなかった。さきほど少女の体内に入り込み、その姿を竜人に作り変えた光、それが今の彼女だった。
 光は始めて見た少女の肉体を元に二つの生命の融合した理想の肉体を作り上げたのである。
 彼女はそっと微笑むと、体を丸め勢いをつけ、
ビュッ!ドスン!
 そのまま窓をすり抜け、夜空に飛び出していった。それと同時に彼女の中から飛び出した塊を気にする事なく…。

 翌朝、その塊―少女は静かに体を起こす。目覚めたばかりのけだるさの中にいた彼女は全身を覆うヒヤリとした感覚で自分が床の上に倒れていた事、そして全裸である事に気付く。身に覚えのない事に驚きと戸惑いを隠せないまま起き上がろうとするが、その手が何かをつかむ。
「…?」
 それは髪の長さほどの白い獣毛だった…。

 その上空で少女と分離した竜人はその他とは一味違った姿を他の竜達の驚きと感嘆にさらしながら愉悦に浸っていた…。竜族の中でも魂のみの存在として誕生すると異色の存在である彼女達は様々な世界を巡り自分達に見あった形を見つけるとそれに一時的に憑依する事でそのコピーを取り、自らの肉体として形作ると言う性質を持っている。
 ゆえに公園の像も、老木も、フィギュアショップの人形も、そして例の少女もそのままの姿で元の場所にある。ただ違うのは、目を覚まそうとシャワールームに入った彼女が自分が竜になって空を飛ぶと言う夢を見た記憶があると言う事だろうか…。


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