繰り返される出来事フェル作
 雲より高い山の中、そこには魔法を使い、剣技を操る魔法剣士とそれと戦う、4つ足の首の長い竜が居た。竜が火を吐き、魔法剣士が水の魔法でそれを相殺する。そして、雷を帯びた剣でその竜に切りかかり、竜は前爪で応戦する。
(こいつを倒せば、任務完了だな。こいつの報酬と財宝さえあれば、数年は遊んで暮らせる)
 魔法剣士はそう思うと、魔法と剣技の両方を巧みに利用し竜を翻弄する。竜はブレスと爪、牙と尾を利用してその魔法剣士を殺そうとする。決着がつきそうにないその戦いを、魔法剣士はいつまでも続けるわけにはいかなかった。彼の魔力には、限りがある。竜の体力や火炎は底がないと思われる程、限りがない。魔法剣士は、そろそろ勝負に出る必要があった。
(これなら、どうだ?)
 魔法剣士は放ったものは、魔力の玉と魔方陣、彼本人による全射程攻撃。魔力は多く消費してしまうが、防御されない限り確実にダメージを与えられるのがこの魔法のメリットである。彼の思惑通り、竜は回避することもできず、ダメージを受けていた。だが、それに耐えつつも魔法剣士に爪を振る。予想外の攻撃に魔法剣士は間一髪でそれを避けるが、その爪を足に掠めてしまっていた。
(し、しまった!)
 魔法剣士はすばやくそれを回復させると氷弾を竜に向かって放つ。その頭が凍りついたところに持っていた剣で一閃して、首を落とす。
「少してこずったな。でもこれで依頼完了だ」
 魔法剣士は、その場に合った財宝を手にすると、にやけ顔を浮かべその場を後にした。

「ご苦労様、これが報酬だ。それにしても、財宝がなかったとなると竜はどこに財宝を隠したんだろうな」
 あるギルドで、袋に入った金貨を魔法剣士が受け取る。彼は報告の過程で私腹を肥やすためだけに、「財宝はなかった」と報告に加えた。その時が、彼の絶頂だった。「これだけの報酬と、財宝があれば、しばらくは遊んで暮らせるな」、そう思ったからだ。
「さぁ、殺してしまった今では分かりませんね。教えてくれるとは思いませんが」
 彼が猫をかぶったような丁寧な口調で答えるとそのギルドの職員は「そうだな」と返答を返した。彼はそのまま、にやけた顔をしながらギルドの建物から出る。だがその建物を出た直後、事態は起こった。
(く、なんだ、この感じは……)
 彼はそう思いつつ、町外れの自宅へと向かう。行く途中の森の中、彼は灼熱を全身に感じつつ一部の肌に異変を感じた。しかし、それ我慢をしつつ、家への道を歩む。家に着いたとき、その異変は全身へと、広がっていた。  家に入り、着ている鎧を外し、服を脱ぐ。その下にあったのは、人間の肌と竜の鱗肌が混じった、奇妙な光景だった。
(くそっ、これがあの竜の呪い……なのか!?)
 彼は知っている限りの回復魔法や毒や呪いを解くための魔法を試す。だが、その症状には効果をなさなかった。鱗肌の部分は広がりを見せ、彼の人間の部分を侵食していく。彼は何か手はないのかと、回復や症状に関する書物を読む。だが、それを直す方法はどの書物にも記されていない。
(なんとか、なんとかならないのか!)
 その間にも侵食は進んでいた。その竜の部分は背や尻の部分にも達し、鮮血と共に尻尾や翼を生じさせる。もちろん、彼の激痛を伴って。彼は目の前の財宝を見た。
(だ、だめだ……もう……持たない……。折角財宝を、手にしたのに)  彼の手が地面をつく。その瞬間に彼の手も腕も変形し、かぎ爪を持った竜の前足に変わってしまう。彼が竜になってしまうのは、時間の問題だった。翼は時間を追う毎に巨大化し、尻尾も長くなり、胴体も四本足の竜のようになる。彼が変わりつつある自分の頭で最後のうめき声をもらした。そして彼の頭から鮮血がもれ、最後の血を一滴残らず流すと竜の角が生える。そして代わりに竜特有の炎が彼の血管内を流れ、血の代わりとなる。そして、頭は完全に竜のものとなった。
 そして自我を失った彼は街を襲い、辺りを焼け野原へと変えた。焦げた死体を貪り食い、財宝を奪い、彼は再び洞窟へと降り立つ。そして、「街壊滅の要因、竜を倒せ」のギルド以来の元、退治されるのを持つことになる。そしてこの出来事は、繰り返される。


 完
小説一覧へ