古ぼけた扉の向こうは 後編 ドラゴンソウル作
 ユウイチは孤児院の院長先生にどう話せばいいか悩んでいた。
いきなり流産で死んでしまった、とあるドラゴンの子供になりたいから孤児院を離れても良いですか、何て正面から言えるような事ではない。
それに他の孤児達が聞いてしまったらどうすればいいだろう。
絶対に後をついてくるし、帰れ!と言ってもヤダ!と言って帰らない可能性はかなり高い。
「院長先生に話を持ちかける時間帯はみんなが寝静まった深夜がベストだな。後はどう話すか・・・だな。」
 という事で彼は出来るだけ急いで院長先生にどう話そうか考えた。
柔和な性格の院長先生(勿論男性)は15年程前、全世界を巻き込んだ戦争で勝利を収めた、とある軍団に参加した一人である。
院長先生はその軍団の中で唯一、闇魔法と光魔法の2つを使いこなす奇抜な魔道士だった。
戦争が終結し、院長先生もそれ以降魔法は行使してないが、それでも魔法の腕は衰えていないらしい。
だから言葉を間違えたら院長先生がその竜を殺しかねない。
彼は真剣に考えた。

 3日が過ぎた・・・にも関わらずまだ良いと思う言葉が見つからない。
普段は普通に振舞って、寝るときや他の孤児達がいない時に考える。
マジでどうしよう・・・と考えていたときに院長先生の方から話し掛けてきた。
「あっ・・・院長先生。」
「ここ数日塞ぎ込んでたようですが、どうかしたんですか?」
「あっ・・・、それは・・・。」
 こうなれば全部話してしまえ。
彼は嘘をつかず全てを話した。
「ふむ、なるほど・・・。」
「と言うわけです。・・・良いでしょうか?」
 院長先生は少し考えた。
「メスドラゴンの養子か・・・にわかに信じられませんね・・・。」
「駄目ですか・・・?」
 院長先生はユウイチに顔を向けてこう言った。
「うーん・・・、・・・良いでしょう。」
「っ!良いんですか!?」
「はい。孤児院と言うのは親がおらず、親からの愛情を知らない子供達を保護する場所ですからね。代わりの親が引き取りたいなら引き渡します。」
「やった・・・ありがとうございます!」
「いえいえ。」
「では早速・・・!」
 そう言うと、彼は地下の食料庫へ向かった。
「荷物は?」
「いらないです!俺が使ってた物は好きにして下さい!」
「はぁ・・・。」
 少し驚きながら院長先生は呟いた。
「何もいらないんですか・・・?」
 その呟きはユウイチに届かなかった。


 院長先生が直接彼に話し掛けてくる前日、実はユウイチはメスドラゴンの所に行って、何か持ってくるものはあるか尋ねたのだ。
メスドラゴンの話では何も持ってこなくても良いらしい。
内心不安を感じながらも彼はドラゴンの所へ向かった。


「オッケーくれた!」
「オッケー?」
「あっ、つまり許可するって意味。」
「まぁ!本当なの!?」
「本当だよ!」
「あぁ嬉しいわ!」
「で、俺は何をすればいいの?」
 ユウイチがメスドラゴンに聞いた。
「あぁ、これでやっと・・・。」
「・・・もしも〜し?」
「・・・あっ、ごめんね。それじゃあこの中に入ってきて。」
 ユウイチは驚いた。
こんな硬い物の中に入れと言うのか?
「無理言わないでよ!どうやってこの中に・・・。」
「大丈夫よ。さぁ。」
 大丈夫かなぁ?と言うふうに頭を掻きながら、彼はこの塊の中に手を伸ばした。
すると・・・。
「ああぁ・・・。」
 驚くべき事に手がするすると入って行く。
そのまま体も入っていった。
「・・・。」
 塊の中に入るとユウイチが着ていた服はなくなっていた。
「げっ!」
 彼はあわてて自分の陰部を手で隠す。
「ふふ。いいのよ、照れなくても。」
「で、でもさぁ・・・。」
 それにメスドラゴンが少し笑ったが、やはり服を着てないとさすがに恥ずかしい。
「で、次は何をすればいいの?」
「そうねぇ・・・。」
 ここでメスドラゴンが考えた。
しばらく考えた後、ユウイチにこう言った。
「・・・私の下半身の所に来てくれるかしら?」
「下半身?」
 そう言われて彼はメスドラゴンの下半身へと近づいた。
塊の中は水の中のような感じだったため、移動するには泳げばいいみたいだ。
「来たよ。で、何すればいいの?」
「あのね・・・、私の蛇腹、・・・私のお腹の事よ、その中に割れ目が見える?」
「・・・うんあるよ。で?」
 メスドラゴンは恥ずかしがりながらもこう言った。
「・・・その割れ目から入ってくれるかしら?」
「へっ?」
 一瞬、言った意味が分からなかったが、すぐに理解して聞いた。
「つまり・・・肛門から胎内に入ってくれ、って事?」
「そ、そうなの・・・。」
「出来れば・・・口にして欲しいなぁ。」
「そうしたらあなたが私の胃に来た時、私の胃液があなたを溶かしてしまうの。お願い。」
 彼はしばらく考えたが、やがて分かったよ、と言った。
「良かった!それじゃあ・・・自力で入ってね。」
 最後は苦笑しながら言ったメスドラゴン。
とりあえず彼は割れ目をこじ開けて頭から中に入って行く。
「あ・・・あぅ・・・あん・・・。」
 自分の胎内から人間の少年が入って行く快感に思わず体を小刻みに震わせ小さい喘ぎ声を上げるメスドラゴン。
そして彼の体はメスドラゴンの胎内に入った。

 胎内に入った彼は待つ事にした。
すると、どこからかへその緒のような物が現れて、彼のへそにくっつく。
「あっ・・・。」
 その瞬間、彼は強烈な睡魔に襲われ眠ってしまった。



 一方、メスドラゴンの腹は日がかさなる内に大きくなっていった。
「あぁ・・・やっと私の子供が出来るのね・・・。」
 思わず少量の涙が目からこぼれたが、彼女はふいにある不安を感じた。
「でも、もしまた死んでしまったら・・・。」
 期待と不安が入り混じった表情で自分の腹を愛しそうになでる。



 そして1週間後、彼女は下半身に力を入れて卵を産もうとしていた。
「うっ・・・うー・・・ん・・・!」
 腹が少しへこみ、割れ目が膨らみを見せた。
数週間前、自分の胎内に入った人間の少年が入った割れ目からは少しづつ白い物が現れ始めている。
息を吸ってから力を入れているため、息を吸う所では少し引っ込んで、力を入れると白い物が少しづつ現れる。
「うーん・・・ぐー・・・!」
 少しづつ白い物があらわになり、メスドラゴンは渾身の力を振り絞って下半身に一気に力を入れた。
「んああぁぁぁーーーーー!!」
 彼女が叫んだ瞬間、白い卵はメスドラゴンの割れ目から勢いよく飛び出した!
卵は塊の中を水の中にいるようにゆっくりと動き、一定の位置で止まった。
「ふぅ・・・。産まれたのね・・・。」
 卵を見ると、彼女は睡眠をとった。
なお、睡眠をとる前に彼女はこう願ったらしい。
どうか、私の新しい子供が卵の中で死んでいませんように・・・。



 それから更に5日後、メスドラゴンが睡眠をとっている時に卵にヒビが入る。
少しづつヒビが長くなっていき、やがて卵が割れるとそこからドラゴンが現れた。
無論、そのドラゴンの大きさは先程卵を産んだメスドラゴンより1〜2まわり小さいが、頭には薄い灰色の頭髪のような物が生えていた。
「これが・・・今の俺の体・・・。」
 彼は塊の中で自分の手や体を見て呟いた。
「・・・母さん。」
 塊の中で彼は静かにメスドラゴンに呟く。
「母さん起きてよ。母さん。」
 彼はメスドラゴン・・・いや、母ドラゴンに近づいて体を揺すりながら彼女を起こした。
「ん〜・・・。あっ・・・!」
「母さん。」
 子供ドラゴンは母ドラゴンに笑顔を向けた。
「・・・っ!!」
 母ドラゴンは涙目で子供ドラゴンを抱きしめた。
「ちょ、痛いよ!抱きしめる力を緩めて!」
「あぁごめんね。とても嬉しかったから・・・あら?その頭にあるのは・・・?」
「母さんだってあるじゃないか。」
 そう言われて母ドラゴンは自分の頭をさわってみた。
頭には目の前にいる自分の子供同様、長くて薄い灰色の頭髪が生えていた。
「まぁ・・・。」
「母さん、此処から出ようよ。」
「え、えぇ、そうね。」
 そう言うと母ドラゴンは子供ドラゴンを抱えて塊の中を出た。


 砂漠を少し歩きながら子供ドラゴンが母ドラゴンに聞いた。
「これから何処に行こう?俺・・・じゃなくて、僕どこか行きたいな。」
「勿論よ。私が生まれ育った所に行きましょ。」
「うん!あっ、でも僕まだ翼をどうやって羽ばたかすか分からないんだけど・・・。」
「大丈夫。それは私が教えてあげるわ。」
「やった!ありがとう!ついでにドラゴンって何を食べるの?」
「そうねぇ・・・主に肉が主食よ。」
「肉かぁ・・・。」
「さっ、行きましょ。背中に乗って。」
「うん!」
 子供ドラゴンが母ドラゴンの背中に乗った。
母ドラゴンが息子が乗ったのを確認すると、翼を羽ばたかせ空へ飛んでいった。

「そう言えばあなたに名前を付けてあげなきゃね。」
 空を飛ぶ母ドラゴンが背中に乗っている―と言うより落ちないようにしがみついてる―息子に言った。
「僕の名前はユウイチって言うんだ。」
「そうねぇ・・・じゃあ「ユウ」って言うのはどうかしら?」
「それが良いな。母さんは何て言うの?」
「私?私はね、「ルファ」って言うの。」
「ルファが母さんの名前だね。」
「ええ。お母さんって呼んでも良いわよ。」
「じゃ、じゃあ・・・お母さん。」
「ふふ。なぁに?」
「・・・時々甘えても良いかな?」
「ええ。勿論よ。」
「やった!ありがとうお母さん!」
「ふふ。どういたしまして。」
 ドラゴンの親子は喜びながら一定の方角を飛んでいき、やがて見えなくなった。




「ほぉ・・・これがその扉ですか。」
 孤児院の院長先生が地下室に置いてあった扉を見ながらそう言った。
ためしに扉を開けてみるが、扉の先には異世界は広がっておらず、ただ壁が見えるだけだった。
後に院長先生はこの扉に興味を示し、扉の製造起源等を調べた。


 院長先生が書いた調査結果は今から100年後、とある大企業の資料保管室に安置されたという。
その企業は会社側が知るのみで公に発表してないが―と言うより発表すると会社が全世界から非難を受ける―
つい先日、実験体が集団で脱走を起こしたらしい。
それも会社に反旗を翻す地下組織が脱走を支援したとか・・・。

 終
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