珠を求めて冬風 狐作
 ――結婚の条件としてかぐや姫から竜の首の五色の珠を求められた大納言大伴御行は、一向に見つからない事に業を煮やしていよいよ自ら船に乗り込み、竜の住むという南海を目指した。しかし途中で行く手を阻まんとするかのような大嵐に巻き込まれて、引き返そうとしたその矢先、一筋の稲妻が大納言の乗る船を直撃した・・・。

「目が覚めたか。」
 大納言が目を覚ますと突如として声がかけられた。何事かと思って振り返るとそこには1頭の巨大な竜が、大納言を見下す様に空中にとぐろを巻いて浮んでいた。
「我の首の珠を欲するはお前か?」
「その通りだ。」
 続けて出てきた言葉に応えると竜はただでさえ大きいその眼を、大きく見開いてしばし大納言を凝視した。それに対して大納言もまた出来る限り目を見開いて対向していると、竜は眼を元に戻して再び呟いた。
「愚かな事よ・・・叶わぬ恋が為に我が首の珠を欲するとは・・・。」
「愚かな事とは何を言う。私は彼女が求める物を彼女に差し上げるべく、この様に努力しているだけだ。決して叶わぬ筈が無い。」
「たかが人間に何が分かるというのだ・・・まぁ良い。持っていくが良い、我が珠を。」
大納言は竜が吐いた言葉の言葉尻に我が耳を疑った。
「今なんと言われたのです?」
「我が珠を持っていくが良いと言ったのみだ。さぁ、手を伸ばせ。」
 大納言は余りの展開の速さに少々訝しく感じつつも、竜の言葉に従って脇にある岩の上へと登り手を伸ばした。すると竜は何の躊躇いも無く下降し、そしてその首の珠を手に触れさせた。様子を見計らった大納言は、やや苦労しつつもその首の珠を何とか手中に収めて岩から下へと降りようとした。
「しばし待て。」
 不意に竜がその動きを止めさせた。何事かとそのまま岩の上で、真珠の様に輝く竜の珠を見詰めながら待っていると竜は更に下降して、その背へと大納言を乗せた。何でも下界まで乗せて行ってくれるのだと言う、有難い事だと素直に従った大納言を乗せて勢い良く宙を駆け始めた。

 竜の背にて過ごす事、約一昼夜、辺りの珍しく美しい光景に見惚れている内に俊足の竜は、今や人界との境を越えようとしていた。その境は深い霧に包まれており、竜の言に従ってその背に強く掴まり振り落とされない様にしていると再び意識を失った。

"う・・・む、ここは・・・。"
 ふと目を覚ますとそこは以前と変わらない空の上であった。竜はどうしたのかと視線を走らせると、何と竜は自分の手の下にはおらず、その脇を悠々と首の珠光らせて飛んでいるではないか。そして、よくよく考えると自分もまた空を飛んでいるのであった。
「気分は如何だ。」
「これは一体・・・。」
「竜の珠とは即ち人の及ぶべき物では無し、然るにこれに触れし者、人としての生を失う。故に汝、人の生を失し、人界に戻れず竜界に留まる。と言う訳だ。」
 慌てふためく大納言を見ながら竜は余裕そうにそう言い放った。そして
「その結果として今のお前は見事な竜、我妻としてちょうど良い女の竜となっているのだ。ついて来い、新居へと案内しよう。」
 そう言ってその男の鮮やかな緑の竜は先行して旋回した。大納言であったその紫の女の竜は、心中では嘆きつつもどこかその姿に惹かれて静かにその後を追って行った。そして以来その行方を知る者はいない。
 そしてかぐや姫はそれからしばらくの後、帝を始め多くの焦がれる人を残して月へと帰って行ったのであった・・・。



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