奥様の趣味冬風 狐作
「それじゃあ行って来るよ・・・多分帰るのは再来週になると思う、すまんな一人にしてしまって・・・。」
「いいのよ、あなた。それよりもお仕事頑張って、そして何事も無く無事に帰ってきてくれればそれで良いから・・・。」
「そうかい・・・そう言ってもらえるとありがたいよ。それではお言葉通り頑張って来るとしようか、それじゃあ連絡はするからな。」
「何時も通りね、分かっているわよ。じゃあ気を付けてね!」
キィ・・・バタン、ガチャッ・・・
 私の名前は榎美佐江、47才の元OLで26才の時に取引先の担当者の男と互いに惚れ合って恋路に落ち、以来2年の交際の果てにその男、つまり今の夫と結婚して寿退社をしました。夫は元々が良家の出で将来が保障されており、また生来の優れた感覚から一度は不振に陥っていた勤め先の会社を平社員でありながら、様々な苦労を重ねつつも立て直すという一大仕事を成し遂げたが故に、私と知り合った時には30才と言う若さで役員待遇を受けていました。
 そして、結婚してから7年の間に更に出世し、待遇と言う名目だけではなく実際に役員となり、今では会社に無くては成らない存在と成っています。また行動派としても知られ、部下想いの理想の上司として人望も厚く、そのお陰で私と2人の子供は余裕のある生活を送っております。
 しかしながら、夫はそれが夫の最大の武器であるのですが、その行動力が故に家にいない事が多く、長男が誕生した時にはイギリスに出張中であり、長女の時は出産ギリギリに大急ぎで病院な駆けつけるという有様でした。その様な事が背景となってか夫は、家に居る間は私と出来るだけ長く居ようと努めてくれます。それは大変ありがたい事で私も夫に甘えていますが、矢張り本当は家にいて欲しいのです、一時の甘みよりも長い楽しみが良いのです。
 ですが、それは少なくとも夫が退職するまでは無理な話、よって私は夫がいない間は高校生の長女と2人っきりで過ごしています。長男は海外の大学へ留学しているので、盆暮等限られた時にしか帰ってきません。どうやら、我が家は男がいない運なのだなぁと強く思えるのでした。そう言う訳で繰り広げられる長女との女だけでの生活、そしてそこには夫と長男の知らない隠された楽しみが潜んでいるのでした・・・。

「お母さん、そろそろ行かない?」
「あら、もうこんな時間なの・・・そうね、行きましょうか。荷物忘れないでね。」
「もう車に積んであるから大丈夫よ。」
「そう、ならいいわね。さぁ行きましょう。」
 この会話が繰り広げられるのは週末の日の夕方、長女の学校の予定によって変動はありますがほぼ毎週欠かさず行われます。私は自らハンドルを握って長女と共に都心へ向けてひた走り、週末の渋滞した下り線と横の線路を走る満員の通勤電車の間の上り線、をすいすいと走ってとある川岸の公園の隅に車を止める。車を止めたら持ってきた荷物、最もそれは1つのアタッシュケースだがその中には幾つかの瓶入りの薬が入れられています。
「どれにしようかな〜。」
「ママはこれにしたわ。」
「お母さんがそれなら私は・・・これにしようっと。」
「あら、珍しいわねあなたがそれを選ぶなんて・・・。」
と呟きつつ、早速錠剤を2粒水無しで飲み込みます。すると数分ほどで体が熱を持ち始め、そして体が変形します。最初は苦痛の変化でしたが、今では何とも楽しい事への前座として受け入れており、特に思う事はありません。ただ、早く変化が終わらないかと言うことだけ・・・全ては1分足らずで終わりまして、私達はリモコンを操って車のドアを開けて、外に特別に設けた床下のスイッチを押して鍵を閉めます。
 これで全ては完了です、しっかりと確認すると私達は颯爽と公園の茂みの中へと飛び込みます。そして、人気の無い深夜の都心にある公園に獣の足音が響くのです。今日は犬、娘は鹿、都心とは言え人の来ないこの公園での一時が私達の楽しみなのです、仮に誰かに見られたとしてもそれはそれで楽しいもの。適当に弄んで、その人間が疲れた隙に車に乗り込んでしまえばいいのですから・・・。時には郊外でする事も忘れずに・・・。
 誰かに見つかるかもしれないという恐れ、人ではない獣に成り下がるという背徳感。それらが今晩も私と娘を突き動かしているのでした、何時か機会あればぜひ家族全員で・・・その時は誰にも見られる事の無い場所にてやるのが私のささやかな夢なのです。あなたも来て見て下さい、都心の某公園に、もし見慣れぬ獣がいたらそれは私達かもしれません。


 完
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