隠されしもの・第2話冬風 狐作
 部屋中に飛び散った紙と本、全ては謎の壷から出てきた強風によって引き起こされたその惨状の中に2人の人物がいた。1人は黒川正友、この部屋のある家の主である。一方、もう1人は壷の中より出でて来た謎の人物、男とも女とも取れるその微妙な透き通る様な白い肌のその者は、曇り所一つ無い漆黒の瞳で黒川の顔を見つめていた。黒川もまたその瞳に魅入られた様に目を離す事が出来ないまま、2人は狭い部屋の中で対峙していた。
 最初に口火を切ったのはその人物であった。
「・・・矢張り・・・無くてはならぬな・・・。」
「えっ・・・?」
 その言葉はただでさえ小さい上に途切れ途切れで聴き取り難かった、余りの酷さに目を細めてこちらも呟いたその瞬間黒川はその目を逆の形へと一瞬で変える事となる。そしてその後に言葉は無かった、あったのは最初は小さな呻き声・・・何かが擦れる音が響いていた。それが静まると共にその静寂を打ち破る短い悲鳴が聞こえたかと思うと、再び静まり返ったのだった。
 今度はわずかな音も何もしはしなかった、その完全なる自然の発する音を除いた静寂はそれから数時間もの間保たれるのであった。

 数時間後、帰宅した家族に乱雑に散らばった部屋の中にて、埋もれる様に倒れて意識を失っている所を発見された黒川はそのまま救急車にて病院へ運ばれた。しかしながらその後も一向に意識は戻る事無く、病院にて行われた検査でもどこにも異常が見つけられないまま入院となった。
 だが結果として誰も彼がどうして倒れていたのか、それを見出し明らかにする事は叶わなかった。何故なら黒川が姿を消してしまったからである、翌朝看護婦が様子を見に現れた時そこに彼の姿はなかったらだ。人の目も監視していた機械の目の何れにも捕らえられず、固定された窓の何処にも傷や破損の無い環境下から、まるで蒸発してしまったかの様に姿を忽然と消してしまったのだった。
 そしてその行方は遥として知られないまま時は過ぎて行った。だがその不可解な失踪を報じる記事の隣に同日、その病院の敷地内にて1人の女の赤ん坊が捨て子として発見された事を報じる記事との関連性を見出した者は誰一人として存在しなかった。唯一、同じ日に同じ病院にて起きた事を奇遇であると感じた以外には全く。


 第2話終 第3話へ続く
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