寒くて暖かい冬ウェイフ作
「お帰り」
「ただいま帰りました……あー、体から冷気が抜けていくぅ〜」
靴を脱いで玄関に上がるや否や、割烹着姿で迎えてくれたお雪様に抱きついた。全身を覆っていた冷たい空気があっという間に何処かへ消えてしまう。
「ほほ、これくらいの寒さでだらしないのう。わらわの住んでおった山の冬は、こんなものではなかったぞ」
「お雪様と一緒にしないで下さいよぉ。それに、俺が寒さに弱かったお陰で、俺達こうして出会えたんですから」
俺は苦笑した。寒さ対決で雪女と勝負して勝てるはずがない。そう、その名の通りお雪様は雪女。遭難しかけていたところを助けてもらったのが縁で、今に至っている。
「確かにそうよの。さて、隆俊様も帰って来たことだし、早速夕餉にしようぞ」
ふむ、俺の言葉にお雪様は頷いて、全く、お前様の口には敵わぬのう、と笑いながら俺を奥へと連れて行ってくれた。その間にいつものように鞄とコートと上着を脱がせてくれた。
「わ、だから後は自分でやりますってば」
「ほほ、遠慮するでない。自分で脱ぐ手間が省けてよかろう」
お雪様の手がネクタイにかかったところで、俺はストップをかけた。けれど、これまたいつものごとくその手は止まってくれない。
「ちょ、ちょっと、いいですってば」
抵抗も空しく、上半身を裸にされてしまった。すぐさまTシャツとセーターを着せられ、俺は暖を求めて急いで袖を通した。
「ほほ、ここも寒さで縮こまっておるのう」
「お雪様、そ、そこは、えっ?」
袖を通している間に、下半身に冷たい感触が現れて、俺は焦った。けれど、それ以上に俺は驚いた。
「メリークリスマス、隆俊様」
いつの間にかお雪様は割烹着を脱いでいた。その下から現れたのは、超ミニスカートのサンタクロース。上着も胸がぎりぎり隠れる程度の物で、明らかに実用向きではない。お雪様、一体こんなの何処から見つけてきたんだろう。
「ほぉ〜れ、寒いの寒いの飛んでゆけ〜」
「あ〜、暖かい……」
お雪様の触れたところからぽかぽかと暖かくなっていく。本来熱は暖かい方から冷たい方へ移動するものだけれど、お雪様はその逆に冷気を吸い取ることも出来るんだそうだ。夏は冷房要らず、冬はお雪様一人の時は暖房要らずで、今年の電気代は今までの半分以下に減った。家事全般お手の物、モデル顔負けの白く透き通った肌と黒い髪、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだナイスバディー、こんな完璧な女性が俺と一つ屋根の下で暮らしているなんて、これはひょっとして夢なんじゃないかって今でも思うことがある。
「おや、もう汁が出てきよったのう」
「うっ、お、お雪様、それ以上は」
俺が回想に耽っている内に、愚息はすっかり勃ち上がってしまっていた。
「お前様と一緒に熱い料理を食したいというわらわの願いを叶えては下さらぬのか?」
「うっ」
もう限界だ。俺のものを舐めながら、切なげに、ちょっと拗ねたように俺を見上げる仕種に耐え切れず、俺は射精した。
「ん、んっ……………………ごく、ごく…………ふぅ……ほほ、お前様の精は相変わらず霊力が凄いのう」
そう言って妖艶に微笑むエッチなサンタクロース。俺は実は凄い霊力の持ち主だったらしく、お雪様はそれを取り入れることで夏の暑さなどの熱に耐えられるのだそうだ。
「あ、あの……」
「続きは食事の後で、たっぷりと……な?」
まだ元気なままの愚息に手が当てられ、今度は逆に熱が奪われていった。高ぶる気持ちごと無理やり冷まされるような、不思議な感じだった。
「うわ……」
彼女に導かれるままに奥の部屋のドアを開けると、そこはまるでレストランだった。サラダ、スープはもちろんのこと、七面鳥の丸焼きや年代物のワイン、ケーキなど、どれもこれもとても美味しそうなものばかり。
「いっただっきま〜す」
「いただきます」
色々と他愛のない話をしながら、俺達はお雪様の料理を味わった。一度この味を知ってしまうと、下手な外食は出来なくなりそうだ。見た目だけじゃなく、匂いも、味も、全てが完璧な料理を絶世の美女と食べる。これ以上の幸せなんてないんじゃないだろうか。
「ごちそうさまでした。いつ食べても、お雪様の料理は絶品ですね」
「ほほ、そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」
ほほほ、とお雪様が笑う。彼女の笑顔を見ていると、こっちもとても幸せな気分になる。そうだ、忘れるところだった。丁寧にハンガーにかけられたコートのポケットを探り、小さな箱を取り出した。
「お雪様、これ、クリスマスプレゼントです」
「おやまあ、そんなに気を使わずともよいのに。では、早速開けさせてもらうぞ」
「はい、どうぞ」
綺麗にラッピングされた箱を丁寧に開けるお雪様。
「これはまた、大層なものを」
「着けてあげますね」
中に入っていた箱の中から小さなリングを取り出し、お雪様の左手の薬指に嵌めた。
「似合いますよ、お雪様」
「ありがとう……ほおお、綺麗よのう」
彼女の指元でさらに輝きを増す俺の給料三か月分の指輪。新しいおもちゃを与えられた子供のような無邪気な笑顔のお雪様。気に入ってもらえて、俺もとても嬉しい気持ちになった。
さて、そろそろ本題に入ろうかな。
「これでちゃんとしたプロポーズが出来ますね。お雪様、俺と結婚して下さい」
今まで言えずにいた言葉。やっと言えてホッとした反面、恥ずかしさで心臓が勝手にバクバクと騒ぎ始めた。
「……こ、こちらこそ……不束者ですが、よろしくお願いいたします」
「あはは、お雪様顔が真っ赤ですよ」
「うっ、そ、それはお前様も同じではないか」
「さて、これで正式に夫婦になれることですし、今夜は寝かせませんよ」
白い肌がすっかり真っ赤になってしまったお雪様を、俺は抱き寄せた。
「ほほ、その前にわらわからのプレゼントも見て欲しいのう」
「うわぁ……」
お雪様が指差す方を見ると、窓の外には雪が降っていた。
「ホワイトクリスマス。わらわからのプレゼントよ」
「ありがとうございます、お雪様!!」
きっと明日の朝には一面の銀世界が広がっていることだろう。それを、静かな夜を堪能しながら待つことにしよう。俺はお雪様をお姫様抱っこでベッドへ運んだ。
「メリークリスマス、お雪様」
「メリークリスマス、隆俊様」
いつになく寒い冬。けれど、俺達の周りだけは、何処よりも暖かかった。
表紙へ
感想は掲示板までお願いします。