守護する者〜後編〜

『危機迫る刻、化身現れ危機を救い賜るであろう。』

 その言い伝えの黒龍が今、私の前にいる。しかも、黒龍は私の祖父であり、私にも龍の力が宿っているらしい。
「えっ……?!それはどういう意味なの?お祖父ちゃん…。」
「まだ解らぬのか……。己の身体の力に……。」
「そんな事言っても……。」
 私は黒龍の言う事に困惑した。それよりも何が何だか解らない。でも…、そう言われてみると身体の鼓動が少しずつ早くなっている気がしていた。
「……まあ良い…、今日は遅い…。」
 空へ吼え、身体が光ると祖父は元の身体に戻った。家へ帰り、夕食を済ませると私はすぐに寝てしまった。
「……明日は、満月か……。」
 祖父は日本酒の入ったグラスを持ちながら、庭へ出て、夜空を見上げている。

 翌日、私は何だか寝起きが良かった。身体も軽く感じられる。しかし、起きたのはもう夕方頃であった。
「お早う…。お祖父ちゃん……。」
「今日は遅かったな……。身体、大丈夫か……?」
「うん…。良く寝れたから大丈夫だよ。」
「…今日は祭だからな……。ほら、これでも着て……。」
 祖父が手にしていたのは私が欲しがっていた浴衣であった。
「あ、これ…。有り難う!早速着てくるね。」
「…良し、準備もバッチリ。出掛けよう!」
 私は意気揚々と祭りの会場へ向かった。会場は昨日、祖父が私を連れて黒龍の姿となった広場である。
 祭りもそろそろ終わりを迎える頃、最大行事の「豊作の願」が始まった。これは村の言い伝えの再現劇、と言ったところだろうか。毎年この催しを行い、黒龍が姿を現すのだ。劇もいよいよ佳境、黒龍が出現する場面にさしかかる。すると、夜空が薄く曇り始め、空から黒龍が降りてくる。
「あぁ…!!黒龍様だ…!」
 村民が一斉に歓声を上げる。
「……汝等……、汝等は我に何を望む……。」
「黒龍様…。今年も雨を降らして頂きたいのですが……。」
「…どうした……。我に申してみよ……。」
「今年は気温が低く、作物の成長が遅いのです…。」
「…そうか。我に任せてみよ……。」
 黒龍は一度瞳を瞑り、見開くと私を見つめる。すると光が私を包み込み、黒龍の前へ身体が浮かび始め、私は意識を失った。
「……我が新たにこの者を転生する……。」
 私の身体に満月の光が照らされると、身体に紋章が浮かび上がり、身体がまるで太陽の様に光り輝く…。

 光り輝く身体は巨大に、それでいて大蛇の様に太く長く伸びていく。足の付け根辺りから尾てい骨が伸びると筋肉も一緒についていき、長い尻尾になる。皮膚も、肌色から段々と燃え盛るような色をした美しい紅い色へとグラデーションのように変わっていくと、細かく形の揃った割れ方をしたそれは鱗に変わった。
 手足も鱗が生えそろい、少し筋肉質になると、爪を含めた指が大きくなり、爪は少し黄色がかかった白く鋭い物へ形を変えていく。首も身体と同じ様に太くなり、更に伸びていくと首から背中を通り、尻尾の先まで炎の様に美しい背鰭が姿を見せる。首の変化と同調して顔も変化を始める。顔全体が少し扁平気味になると、鼻と顎が前へ少しずつ、さかし確実に伸びていく。伸びきった所に新たな鼻孔が作られ、変化が苦しいのか盛んに鼻で呼吸をする。顔の皮膚も身体と同じく、紅い鱗で覆われると、頭からは爪と同じ色をした対になっている角が姿を表し、変化が終わった。

「紅い……、龍……?!」
 村民の一人がそう言うと、私は目を覚ました。
(!!?か、身体が…、龍に…?!)
 少し戸惑う私に、脳裏から聞き慣れた声が響く。
(大丈夫だったか……、半ば無理やり転生だったからな…。)
 そう、あの黒龍…、祖父の声が聴こえる。どうやらこれが龍同士のテレパシーらしい。
「……汝等よ…、我は赤龍(せきりゅう)……、我も汝等の望みを叶えようぞ……。」
 無意識で神話のような言葉を発する私…。最初はは不思議な気持ちだったが、今は自然にこの言葉を話すことができるようになり、それは言葉だけでなく行動にも現れる。
「おおぉぉおおお!!」
 大きく咆哮し、空へ音も無く飛び立ち、雲の中を飛び回ると、雲が一瞬太陽のように赤く光ると、それまで涼しいというよりは半ば寒かった村が、夏の過ごしやすいが、それなりに暑い気温になった。そう、私は黒龍とは違い、熱を支配することができる紅龍へと転生したのであった。
「おぉ…!これで村も安泰だ……!」
 村民は皆大喜びをしたのであった。

―――――――

「……ん……、うぅ…っ………。」
 私が起きるといつもの自分の部屋にいた。
「私……、龍になって……。」
 自分の身体を確かめるが至って普通の人の身体だ。
「起きたのか……。昨日は無理やり悪かったな……。」
 祖父が私に謝り、部屋に入ってきた。
「あ…、お祖父ちゃん……。いいのよ、別に。…それに……。」
「どうした…?」
「私、龍になったとき、凄く嬉しかったの。何故だか解らないけど。それに、空を飛ぶのも気持ちが良かったな…。」
「それは良かった……。私が力を解放したから自由に龍化できる……。」
 祖父がそう言うと、
「さあ、今日も寝てられないなあ…!!」
 私はそう言って立ち上がり、新たな龍の化身としての道を踏み出し始めたのであった。


―終―
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