高校狐物語SideA DarkStar作
「おかーさん、なんで起こしてくれなかったの?」
 と女の子がドタドタ台所に入ってくる。
「何度も、起こしましたよ。」
 という母の声。
とここまでならば、どこの家庭にでもあるような風景。ただ、一つちがうのは。
「ねーちゃん、どうでもいいけど尻尾でてるよ。みっともない。」
 朝食の味噌汁をすすりながら、弟の将太が姉のスカートの下から覗く、黄色い毛の塊に目をやる。
「え、嘘、やだ。」
 女の子が、尻尾に力を入れるとそれは、すぅっとスカートの中に入っていく。
「全く、それでよく人間の高校なんて行こうと思うよね。」
 今度は、たくわんをぼりぼり噛みながら将太が言う。
「いいじゃない、あたしの勝手でしょ。」
「よくないよ。お姉ちゃんがさっきみたいに尻尾出して、狐だってばれたら、僕達もここ引っ越さないと行けないんだよ。」
 歳の離れた弟という事もあり、かわいい所もあるのが、最近は、生意気さが目立つ。本当は、彼なりに姉を心配しているのだが、口から出る言葉はどうも素直ではない。
「小、中とこれでなんともなかったんだし、高校も大丈夫よ。」
「彰子は、高校に好きな子がいるのよね〜。」
 と洗い物を終えた母親が、言うと
「もうお母さん!!!」
 と彰子も大きな声を出す。
「えええ、でも、そいつ人間でしょ!!! 大丈夫なの!!!」
 その声に
「もういいでしょ。時間ないからあたしもう行くよ。」
 といって朝食もとらず、彰子は家を飛び出していく。

「おはよー、彰子。」
 彰子の人間の友達達が、声を掛けてくる。だが、彼女達は、まさか彰子が狐だとは知らない。
「おはよー。」
 彰子は、げんきよく、友達に挨拶を返す。そんな彰子の後ろから声を掛ける男子生徒。
「おはよう藤村さん。」
「あ、お、おはよう。安部君。」
(ど、どうして清志君があ、あたしなんかに・・・・)
「どうしたの、顔赤いみたいだけど、熱でもあるんじゃない?」
「だ、大丈夫。あ、あたし、げ、元気だから、」
「そう、それならよかった。」
 にっこり笑うと清志は彰子の前を通り過ぎていく。成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群の 三拍子そろった彼は、誰もが認める学校一の男子生徒、安部清志。
 女の子からも引く手、数多なのだが、どういうわけか、彼女を作るつもりはないらしい。そんな清志を後姿をみながら、彰子は、
(ホント、びっくりした。尻尾が縮まったかと思った。)
 そんな彰子の様子を物陰から見つめる黄色い物体。
・・・・・・・・

 本日最後の授業は体育、種目は長距離走。
(二本足で長距離って、つかれるから嫌なんだよなぁ。どうせやるなら、狐の姿で走りたい。)
 トラックを回って走っているものの足の遅い、彰子は次々に抜かれていく。
「ほら、彰子がんばりなあ。」
(がんばってるわよ。4つ足だったら、あんた達には絶対負けないんだから。)
 という彰子だが、
(な、なんだろ、なんか体がだるい。・・・・)
「はあ、はあ、はっ、はっ、はっ」
 息を荒く走っていた彰子の顔から汗が引き代りに口から、舌をべろんとだす。
(やばい、代謝が先に狐に戻ってきてる。)
 耳や顔にうっすら黄色の毛が覆い、スパッツの後ろが、もぞもぞと動いてくる。
(やば、尻尾伸びてきたどうしよう。)
 立ち止まって息を整えるも、なかなか、変化の進行は止まらない。
(朝、横着しないでちゃんと化け直しとくんだった。どうしよう、こんな所で狐に戻ったら・・・・)
 と彰子があせっていると。
がさがさ、がさがさ。
 校舎の茂みが動くと、1匹の仔狐が、茂みから飛び出す。
「キューン、キューン、キューーン」
 突然の動物の鳴き声に、生徒達が振り向くと
「なんだ?あれ?」
「きゃあ、かわいい!!! ねえ、あれ狐じゃない。」
「きっとそうだよ。どこかから、迷ってきたのかな。」
 生徒達の視線は一気に現れた仔狐に注がれる。
「え」  と彰子が視線を移すとそこには
(将太?、え、なんでこんなとこにいるのよ。)
 そう、この仔狐は彼女の弟の本来の姿。将太は、生徒の視線を釘付けにしながら、姉に視線を送る。
(さ、サンキュー、将太。)
 そう思って、彰子はトイレへ駆け出す。姉の姿が見えなくなったのを確認した将太は、そのまま、校舎の外へ走っていく。トイレまでなんとか、たどり着いた彰子。個室の鍵を掛けた直後に、彼女のお尻から、黄色い毛に覆われ先の方が白みがかった太い尻尾と頭から2つの耳がぶわっと飛び出してくる。
「ふー、なんとか間に合った。」
 壁に突いた彰子の手はすぐさま、狐の前肢に変わり、口元が広がりながら、するどい牙と長い口腔を形成していく。
「コーーーーン!!!」
 と一鳴きして、完全に狐に戻った。彰子は、すぐさま、逆再生映像のように、人の姿に変身していく。狐に戻る時、脱げてしまった服をすばやく着ると
「ふー、助かった。ホント、将太のおかげね。」
 彰子が、グランドに戻ってくると
「彰子、どこいってたのよ。」
 突然いなくなった彰子を探していた友人。
「ちょ、ちょっとトイレ。で、あの狐は?」
 将太がどうなったか心配な彰子。
「突然逃げちゃって、さっき、清志君が、捕まえてくるって、走ってちゃったよ。」
(ええ!?、将太、大丈夫かな。清志君の事噛んだりしないかなぁ)
 弟の心配よりも、彼女は清志の方が心配らしい。しばらくして、清志が戻ってくると、彰子は、すぐさま清志に近寄る。
「大丈夫?安部君、噛まれなかった?」
「あ、ああ、大丈夫だったよ。藤村さん。」
「あのー、しょ、じゃなかった 狐は?」
(あの狐があたしの弟なんていえないもんね。)
「ああ、逃がしちゃったよ。」
「そ、そうなんだ。惜しかったね。」
「あ、ああ、そうだね。」
(せっかく、清志君と二人っきりなのに会話が続かない。とにかく、今日は清志君にあたしが狐だってばれなくてよかった。)
 なんとなくぎこちない会話。そんな、会話を遠くからつまらなそうな顔で見守る少年。
「はぁあああああぁ。」
 少年の大きな溜息は、2人の耳には届かなかったようだ。

・・・・・・・・・

 家に帰ってきた彰子。
「将太。今日は悪かったわね。」
「いいよ、別に、今日学校休みで暇だったし。」
 なぜか、朝より一層機嫌の悪い将太。
「ねえ、あんたどうしたの?」
 そんな弟の様子を彰子が聞くと。
「どうもしないよ。」
 と将太がそっぽを向くと
「お姉ちゃんの、にぶちん!!!」
 とボソッと言う
「な、なんでっすってぇ!!!!」
 今日もにぎやかな姉弟狐の追いかけっこが始まった。


 終
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